敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

「企業経営って、茉莉が思っているよりずっと、残酷で汚い世界だと思うんだ」

柊真さんは、困ったような笑顔を私に見せた。
その笑みには、どこか哀しみが混じっていた。

「だから、茉莉にはあまり踏み込んできて欲しくない」

視線を逸らす彼に、私は食い下がる。

「どうして……」
「守りたいからだよ」

優しい言葉のはずなのに、彼の声には、どうしても越えられない壁があった。

「私は、柊真さんといたら傷つきません。だから、柊真さんが抱えているものも、一緒に――」

言いかけた私の言葉を、柊真さんが遮る。

「無理だ」

低く確固たる声。その瞳は、私の意志を跳ね返すほど冷たかった。

「茉莉は純粋で優しい。だからこそ、汚い世界に触れてほしくない」

柊真さんの不器用な優しさを感じながらも、彼が作る壁の堅牢さに、私はひどく苦しくなった。

「……わかりました」

その頑なな意思を聞いてしまった私は、搾り出すようにそう答えるのが精一杯だった。

ゆっくりと立ち上がり、柊真さんの隣を離れる。

何か言ってほしかった。でも、彼はただ黙って私を見送るだけだった。

ドアが静かに閉まる。

その瞬間、悔しさと無力感が押し寄せてきて、涙がこぼれそうになる。

――私は、彼の力になれないんだ。

柊真さんが抱えているものに、私は触れることすらできない。
彼の痛みを分かち合いたいのに、それを許されない。

その事実が悔しくて、私は1人涙を流した。