敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜

会場を出た柊真さんの後を追いかけ、私は思い切って声をかけた。

「柊真さん、どうかしたんですか?」

彼は足を止め、わずかに眉を寄せる。そして、ふっと浅く息を吐いた。

「別に、なにもないよ」

その声音はどこか冷たく、突き放すようだった。

「でも……」

言いかけて、私は言葉を飲み込む。いつもの彼なら、こんなふうに素っ気なく返すことはない。やっぱり、片桐さんとのやり取りが関係しているのだろうか。

「……あぁ、“彼女” だと紹介しなかったから?」

柊真さんが私の戸惑いを勘違いしたのか、少しだけ苦笑する。

「その方が都合がいいこともあるんだ、仕事中は許してくれる?」

私は胸の奥に小さな棘が刺さるような感覚を覚えた。

「そうじゃなくて……」

私は小さく首を振る。

「……片桐さんとは、もともとお知り合いなんですか?」

そう尋ねると、柊真さんの表情がわずかに強張った。

「どうして?」
「態度が違って見えたから」

さっきの彼は、いつもの柊真さんとは違っていた。仕事中にあんなに鋭い目をする彼を、私は今まで見たことがなかった。

柊真さんは一瞬、視線を逸らした。そして、渋々と口を開く。

「昔、あいつは俺のプロジェクトを奪って出世した。それだけのことだ」

淡々とした口調。でも、言葉の端々に滲む悔しさと苦い記憶。

「そ、そんな……」

いつもよりずっとそっけなくて冷たい彼が、ほんの少し心の奥を見せてくれているような感じがして、私は続きの言葉を探していた。

「それ以上、何もないよ。心配させたならごめん、戻ろう」

けれど、私の意図を読んだように、そう短く告げて柊真さんはもう何も言わなかった。

そのいつも通りの笑顔が、これ以上踏み込むな、と伝えているようで……私は、それ以上何も言えなくなってしまった。