「よし」
こんなもんか、とペンを置く。
目の前に並べられた紙切れたち。
ついさっきまで白紙だったのに、今は文字を書かれてまるで命を宿したみたい。
私は、自分が書いた左側と柊くんが書いた右側を交互に眺める。
すぐに明確な違いがあることに気づいた。
「短くない?」
「長すぎだろ」
2人の声が重なり、思わず顔を見合わせた。
私は右側の1枚を手に取る。
「“宇宙”って……単語すぎて内容全然想像できないよ。
せめて述語とかテーマとか…」
そんな私の意見に、負けじと柊くんが左側の1枚を手に取った。
「いや、これもどうなの?
1、2……6行もあるじゃん。長すぎ。手紙交換してんじゃねぇんだから」
「そ……」
言い返そうとして口を閉じた。
言われてみたら確かに私のは長い。
柊くんが書いたのはどれも1行。ほぼ単語。
私は何も言えなくなった。
その沈黙を破ったのは柊くん。
「……まぁ、でもさ。
これとか、普通にいいと思うよ。映像にしたら面白そう」
そう言って柊くんが指で弾いたのは、主人公に没入できる臨場感がある構図について書いた紙。
一番最初に思い浮かんで、気づけば一番長く書いていた物だった。
「えーっと?“構図は主人公に没入…”」
そのまま柊くんが紙を掲げ読み上げようとする。
「ちょっと、やめて!声に出さないで」
私は慌てて紙に手を伸ばすけれど、ヒョイと遠ざけられた。
「さっきは自分で声に出してたのに?」
からかうように言われ、私は恥ずかしくなって「もういい」と椅子にドシンと座った。
「子供なの?柊くん」
「子供だよ、17歳なんて」
彼は静かに笑った。
嫌味のつもりで言ったのに。
全然くらわないのもまた悔しい。
「で?楠木さんはどう思う? 選んでみてよ。右側」
柊くんはそう言って軽く目を細めると、机の右側をポンポンと叩く。
右側……柊くんの書いたアイデアだ。

![忘れられない映画[1話]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1776983-thumb.jpg?t=20260310195325)

