「あ、ぅえっ、って盾狼《たてがみ》君っ……?」
「た、盾狼くんっ?!……薬学の?」
「おはよう。みんな。」
その盾狼君が、ほんの少し上げた口角だけで柔らかく笑った。
よく見ればグレーのスーツ姿で、さっき私の後ろで窓越しに目が合ったお兄さんだ。
首を傾げて挨拶をする盾狼君。グレージュの柔らかそうな髪が、数秒遅れて揺れる。
アンニュイそうなタイムラグ。電車の揺れがいい感じに盾狼君の空気を惹き立てている。
「お、おはようございますっ」
真智美ちゃんが、顔をこわばらせて挨拶をすれば。
まだ私の頭に手を乗せる盾狼君が、私を覗いて言った。
「百奈は俺におはよって、言ってくんないの?」
初めましての、このタイミングでこの距離感。
もしかして、助けてくれてる?私の敏感センサーが反応して、盾狼君の演技に合わせることに決めた。
「えへへ、おはよ。」
「おはよ、百奈。」
「……今日は、スーツなの?」
「今日授業の帰りに、製薬会社に呼ばれててさ。」
さり気に、ストールから飛び出る私の髪をいじり始める盾狼君。この私を前にしても動じないその根性、やるじゃん。
あまりにも自然に触れてくるから、こっちのが動揺しそうになる。
でも同じ薬学部なのに名前知らなくてごめんね〜?私3年生からの編入生だから。



