「俺が結んであげる。」
「い、いいって、」
「うなじ可愛い。」
うなじに可愛いもクソもあってたまるか。
でも私のうなじが見たくて結んでくれたの?それならそうと早く言ってくれればいいのに。
って気安く触るな盾狼ジゴロ。
「うなじから、ここ。この肩に向かうまでの間が好き。」
どんな手狭なマニアだよ。
指でうなじに線を引かれて、思わずコクリと喉が鳴る。熱くなるのを悟られないうちに、振り返って笑顔で伝えた。
「えーそうなの?鹿助君って思った以上に変態なんだあ。」
「うん。百奈見てると変態にもなる。」
「そっかあ。大迷惑だあ。」
周りが何度もこっちを見ては目を反らす。エレベーターホールでのキスはあっという間に浸透してしまったらしい。
「葛根湯の生薬って7つも入ってるんだね。これが葛根《かっこん》、大棗《たいそう》、麻黄《まおう》、甘草《かんぞう》に、……なんかこれ、シナモンの臭いしない?」
鹿助君が、一つの長い生薬を手に、私の鼻元に充ててくる。うざくて手を払ってやった。
「……桂皮《けいひ》ね。ほぼシナモンだよそれ。正確にはニッキと同じ。」
漢方についてはかなり詳しい私。だって学会の論文で提出したテーマだったし。
「……へえ。詳しいんだね。」
今までの声色と違う気がして、ふと鹿助君の方を見やる。実験台の上に並べられた生薬を手に取り、観察する目つきがちょっと怖い。
私が手を払ったから、嫌な気分になっちゃった?ふふ。



