夜8時
廃倉庫では蝶子が椅子に座らせられている。
その腕は縄でぐるぐる巻きにされていた。
幸いなことに、服装や身体は連れてこられた時と変わりない。めんどくさそうな表情も一緒であった。
当然電気は通っておらず、窓から差し込んでくる街灯の明かりだけなので室内は薄暗い。
「あと1時間か。お前の親父は本当に来るかな?ま、来れば1億が手に入るし、花札グループの経営は傾く。来なければ娘を見捨てた父親として世間から大バッシング。どの道、花札小一郎は終わりだな」
そう言ってニヤニヤ笑う今坂の表情を見て、蝶子は冷たい目線を流した。
「なるほど?その様子だと、花札グループに顧客が流れて倒産した会社の社長さんかしら?その逆恨みってワケね。
あぁそういえば、あなたと同じ年頃の社長さんが経営していた会社が最近倒産したって話を聞いたわ。原因は会社が不正取引をしたことよる顧客離れ。確か社長さんの名前は八百長介(やおちょうすけ)・・・」
そこまで話した所で、蝶子の視界に何かが入ってきた。それは鏡のように光るナイフであった。
「お嬢ちゃん、悪いがそこまでだ。ここからは静かにしておいてもらおうか。俺だって大事な人質を失いたくないんでね」
今坂の言葉に、蝶子は仕方なく渋々黙ることにした。
しかし、せっかく訪れた沈黙をぶっ壊すように突然倉庫の扉がバァンと大きな音を立てて開いた。
開けた人物の姿は、街灯を背にしているため逆光でよく見えない。しかし1人であることは分かった。
「お!早速お出ましか。まったくせっかちなやつだ」
今坂は舌なめずりをする。
「ちゃんと1人で来たようだな。さすがに娘の命には代えられねぇか。さぁ、金を渡せ!」
今坂は人影に向かって叫ぶが、その人物はそれに答えず、無言で近づいてくる。
その様子に違和感を覚えたのか、今坂は表情を少し硬くして眉間に皺を寄せた。
「お、おい!なんとか言え!おい!」
しかし人影は相変わらず無言で、コツコツと足音を立てて歩いてくる。
やがて輪郭がハッキリしてくると、どうやら小一郎ではないことが分かった。
「誰だ!お前誰なんだよ!?」
その時、別の窓から月明かりが入ってきた。
浮かび上がった人物は、間違いなく花札家の長女、花札萩乃だった。
「あんたに渡すお金なんて1円もないわ。さっさと蝶ちゃんを返しなさい。私が大人しい内にね」
萩乃の姿を見て、蝶子は少し驚いた。
姉が来てくれるだろうとは思っていたが、その目が今まで見たことないくらい怒りに燃えているのだ。そして背中に竹刀袋を背負っている。
萩乃は蝶子と目が合うと、途端に表情を柔らかくしてニコッと笑った。
「蝶ちゃん遅くなってごめんね。ここ家から遠くて。今日のお夕飯は蝶ちゃんの好きな生姜焼きだから、早く帰ろうね」
「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」
姉妹の会話を呆気に取られながら聞いていた今坂だったが、すぐに我にかえった。
「あはは、美しい姉妹愛だな。まぁ良い。人質が2人になれば金も2倍になるからな」
そう言うと、今坂はおもむろに手を上げて指をパチンッと鳴らす。すると物陰から何やら物騒な男達が何十人もゾロゾロと出てきた。手には鉄パイプを握っている。
しかし、萩乃は眉一つ動かさずにその連中をしげしげと眺めていた。
「あらあら、お友達が多いのね。それならみんなで早くおねんねして頂こうかしら?
私達明日も学校だから、お夕飯が遅くなると困るのよ」
そして萩乃は徐に背中に背負っていた竹刀袋に手を伸ばし、中に入っている物を掴んでゆっくりと引き抜いた。
月明かりに照らされた「それ」を見て、蝶子は思わず悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?そ、それは先祖代々から受け継がれた我が家の家宝である日本刀じゃない!」
「えぇ!?」
蝶子の言葉を聞いて、悪党たちもギョッとしてその刀を凝視する。
その刀の鞘には色とりどりの大きな宝石が散りばめられており、素人目に見てもとても高価だと一目瞭然だった。
「そうそう!急いでたから手近にあった得物がこれしかなくて。えへへ」
萩乃は照れくさそうに笑いながら頭をかいている。
「えへへじゃないでしょ!?それは名のある刀鍛冶が打ったもので、時価数十億はくだらないのよ!比喩でない本物の伝家の宝刀!分かってるの!?」
「大丈夫大丈夫!この刀で子孫が命を守れたなら、ご先祖様も許してくださるわよ。
あ、それに安心して?これ真剣だけど、お姉ちゃん峰打ち得意だから♡」
「得意とかなの!?」
姉妹の口喧嘩はまだ続きそうだったが、突然ガンッと大きな音がし、会話は中断された。
痺れを切らした今坂が鉄パイプを地面に叩きつけたのだ。
「お前ら、さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ!おい、姉の方!てめえも妹と同様、捕まってもらう。そんな真剣持ってても、使い慣れなかったら意味ねえんだよ!」
今坂の怒号に、手下も我に返ったのか萩乃のことを取り囲んだ。
「へー、私とやり合おうっての。良い度胸だわ。シスコンの妹に手を出したらどうなるか、思い知らせてあげる」
そう言って萩乃は刀を腰にやり、鞘を抜く。中からは銀色に光り輝く、磨き上げられた見事な日本刀が現れた。
そして宝石の付いた鞘を何の迷いもなく床に捨て、刀で宙を斜めに切った。
「全員まとめてかかって来なさい!」
萩乃の言葉が合図になり、戦いの火蓋が切って落とされた。
廃倉庫では蝶子が椅子に座らせられている。
その腕は縄でぐるぐる巻きにされていた。
幸いなことに、服装や身体は連れてこられた時と変わりない。めんどくさそうな表情も一緒であった。
当然電気は通っておらず、窓から差し込んでくる街灯の明かりだけなので室内は薄暗い。
「あと1時間か。お前の親父は本当に来るかな?ま、来れば1億が手に入るし、花札グループの経営は傾く。来なければ娘を見捨てた父親として世間から大バッシング。どの道、花札小一郎は終わりだな」
そう言ってニヤニヤ笑う今坂の表情を見て、蝶子は冷たい目線を流した。
「なるほど?その様子だと、花札グループに顧客が流れて倒産した会社の社長さんかしら?その逆恨みってワケね。
あぁそういえば、あなたと同じ年頃の社長さんが経営していた会社が最近倒産したって話を聞いたわ。原因は会社が不正取引をしたことよる顧客離れ。確か社長さんの名前は八百長介(やおちょうすけ)・・・」
そこまで話した所で、蝶子の視界に何かが入ってきた。それは鏡のように光るナイフであった。
「お嬢ちゃん、悪いがそこまでだ。ここからは静かにしておいてもらおうか。俺だって大事な人質を失いたくないんでね」
今坂の言葉に、蝶子は仕方なく渋々黙ることにした。
しかし、せっかく訪れた沈黙をぶっ壊すように突然倉庫の扉がバァンと大きな音を立てて開いた。
開けた人物の姿は、街灯を背にしているため逆光でよく見えない。しかし1人であることは分かった。
「お!早速お出ましか。まったくせっかちなやつだ」
今坂は舌なめずりをする。
「ちゃんと1人で来たようだな。さすがに娘の命には代えられねぇか。さぁ、金を渡せ!」
今坂は人影に向かって叫ぶが、その人物はそれに答えず、無言で近づいてくる。
その様子に違和感を覚えたのか、今坂は表情を少し硬くして眉間に皺を寄せた。
「お、おい!なんとか言え!おい!」
しかし人影は相変わらず無言で、コツコツと足音を立てて歩いてくる。
やがて輪郭がハッキリしてくると、どうやら小一郎ではないことが分かった。
「誰だ!お前誰なんだよ!?」
その時、別の窓から月明かりが入ってきた。
浮かび上がった人物は、間違いなく花札家の長女、花札萩乃だった。
「あんたに渡すお金なんて1円もないわ。さっさと蝶ちゃんを返しなさい。私が大人しい内にね」
萩乃の姿を見て、蝶子は少し驚いた。
姉が来てくれるだろうとは思っていたが、その目が今まで見たことないくらい怒りに燃えているのだ。そして背中に竹刀袋を背負っている。
萩乃は蝶子と目が合うと、途端に表情を柔らかくしてニコッと笑った。
「蝶ちゃん遅くなってごめんね。ここ家から遠くて。今日のお夕飯は蝶ちゃんの好きな生姜焼きだから、早く帰ろうね」
「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」
姉妹の会話を呆気に取られながら聞いていた今坂だったが、すぐに我にかえった。
「あはは、美しい姉妹愛だな。まぁ良い。人質が2人になれば金も2倍になるからな」
そう言うと、今坂はおもむろに手を上げて指をパチンッと鳴らす。すると物陰から何やら物騒な男達が何十人もゾロゾロと出てきた。手には鉄パイプを握っている。
しかし、萩乃は眉一つ動かさずにその連中をしげしげと眺めていた。
「あらあら、お友達が多いのね。それならみんなで早くおねんねして頂こうかしら?
私達明日も学校だから、お夕飯が遅くなると困るのよ」
そして萩乃は徐に背中に背負っていた竹刀袋に手を伸ばし、中に入っている物を掴んでゆっくりと引き抜いた。
月明かりに照らされた「それ」を見て、蝶子は思わず悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?そ、それは先祖代々から受け継がれた我が家の家宝である日本刀じゃない!」
「えぇ!?」
蝶子の言葉を聞いて、悪党たちもギョッとしてその刀を凝視する。
その刀の鞘には色とりどりの大きな宝石が散りばめられており、素人目に見てもとても高価だと一目瞭然だった。
「そうそう!急いでたから手近にあった得物がこれしかなくて。えへへ」
萩乃は照れくさそうに笑いながら頭をかいている。
「えへへじゃないでしょ!?それは名のある刀鍛冶が打ったもので、時価数十億はくだらないのよ!比喩でない本物の伝家の宝刀!分かってるの!?」
「大丈夫大丈夫!この刀で子孫が命を守れたなら、ご先祖様も許してくださるわよ。
あ、それに安心して?これ真剣だけど、お姉ちゃん峰打ち得意だから♡」
「得意とかなの!?」
姉妹の口喧嘩はまだ続きそうだったが、突然ガンッと大きな音がし、会話は中断された。
痺れを切らした今坂が鉄パイプを地面に叩きつけたのだ。
「お前ら、さっきからごちゃごちゃうるせえんだよ!おい、姉の方!てめえも妹と同様、捕まってもらう。そんな真剣持ってても、使い慣れなかったら意味ねえんだよ!」
今坂の怒号に、手下も我に返ったのか萩乃のことを取り囲んだ。
「へー、私とやり合おうっての。良い度胸だわ。シスコンの妹に手を出したらどうなるか、思い知らせてあげる」
そう言って萩乃は刀を腰にやり、鞘を抜く。中からは銀色に光り輝く、磨き上げられた見事な日本刀が現れた。
そして宝石の付いた鞘を何の迷いもなく床に捨て、刀で宙を斜めに切った。
「全員まとめてかかって来なさい!」
萩乃の言葉が合図になり、戦いの火蓋が切って落とされた。



