月花のナイトに寵愛される




彼に案内されるまま歩き、着いた場所はホテルではなく、年数が経っていそうな古い雑居ビルだった。

今にも止まりそうなエレベーターに乗り、彼は6のボタンを押す。
ボタンは6までしかなく、どうやら最上階へ行くらしい。

特に声をかけられることもなく、自分から口を開くこともなく、無言のまま時間が過ぎ、あっというまに目的地に着いた。

彼はエレベーターを出てすぐの扉を開け中に入る。
いまさらと思いながらもやっぱり怖くなって、そんな自分を叱咤して足を動かした。

見知らぬ男に連れられて来た場所はいったいどういうところなのか。

うるさい心臓を抑え覚悟をして中に入る。
しかしあまりに普通で拍子抜けした。

大きなソファーに大きな机、テレビにミニキッチン。
そこは部屋というより事務所みたいな感じだけれど、誰かが暮らしているのだとすぐわかる温かい部屋だった。


「はいこれタオル。新品じゃないけど洗濯してあるからきれいだよ」
「えっ、あ、ありがとう、ございます……」


手渡されたタオルはふわふわで、体が冷え切っているからか温かく感じた。

部屋を濡らしてしまうのも忍びないと思い、遠慮なく使わせてもらう。
だけどそれだけじゃ焼け石に水で、髪も服もびしゃびしゃなのは変わらない。

欲を言えばお風呂に入って着替えたいけれど、私の立場で言えるはずもなく、そもそも入れたところで着替えすら持っていないのでどうしようもない。