月花のナイトに寵愛される

……え、今誰かに呼ばれた?

この場所で名前を呼ばれることなんてほとんどない。
それもこんな大声で、男子に――

そこまで思考してはっとする。
だってこの声、耳馴染みはないけれど最近聞いたばかりだ。


辺りを見回すと、目立つ金髪のおかげですぐに見つけられた。


「依桜! ちょっと話したいからこっち来てくれない?」


そこには湊が昨日と同じような笑顔を浮かべて立っていた。


「えっ?」


驚きすぎて思わず声が出てしまう。

どうしてここに湊がいるの?
もしかして同じ高校?
だけど湊と学校で会ったことはないはず。


だってこんな明るい髪で性格まで明るい人なんて、一度会ったらきっと忘れない。


受け止めきれない情報を処理したいのに、周りは一層にぎやかに騒ぎ始めた。


「河合さん、湊くんと知り合いだったの!?」
「どういう関係!?」
「真面目だと思ってたけど河合(かわい)さんって――」


今まで話したことすらなかったクラスメイトたちから矢継ぎ早に質問される。
私を見ながらひそひそと話す人もいて気分が悪い。

私だってこの状況がよくわかっていないのに、どういうことかなんて返事できるわけがなかった。


するとしびれを切らしたのか湊が教室に入ってくる。


「依桜、行くよ」
「えっ、ちょ、ちょっと待って」


湊は私の言葉を無視して手を引っ張る。
ガタン、と椅子が大きな音をたてた。

教室を出ると、ほかのクラスの子たちも見に来ていたようで人でいっぱいだった。


みんなが私を――湊を見てる。


人がいっぱいで通りにくいはずなのに、湊が進もうとすると魔法のように隙間が空いていく。

わけがわからなくて頭がパンクしそうだ。


それなのに、湊の手の温かさは昨日と同じだなんて、変なことを考えていた。