月花のナイトに寵愛される

昨日ぶりの町に緊張しながら足を踏み出す。
そこには意外にも静かな景色が広がっていた。

目が痛くなるイオンも、怒鳴り声を上げる人も、きついお酒や香水のにおいもしない。


――ただの、普通な町。


景色を見ながらときどきスマホで経路を確認して歩く。
噂で聞いていたような、怖い人に声をかけられたり、急に殴られたりすることはなく、他の人もただ静かにそこに存在している。



須戸花町(すどかちょう)
看板のいたるところに書かれているこの町の名前。


ここはこの国一番の歓楽街で、この国で一番治安が悪いところだと言われている。

喧嘩や犯罪は日常茶飯事。


そのため地元の人には忌み嫌われていて、ここに住む子どもはまず親に「須戸花町には行くな」と教えられる。

……もちろん私は母親にそんなこと教えてもらったことはないけれど。


まあとにかく、この町は暴走族や暴力団の本拠地にもなっていて、普通の人は足を踏み入れることすらしない。

私も昨日まではそうだったし、そういう町なのだと思っていた。


だから今この景色に驚いている。
この町も静かに眠ることがあるんだって。