月花のナイトに寵愛される

そのときやっと彼のことをちゃんと見た。

明るいけれど柔らかい金色に染められた髪に、中性的だけれど男らしさを感じる精悍な顔。

笑った顔が人懐っこくて、かけてくれる言葉が優しくて。


本当にきれいな、ひと。


その事実に心臓がぎゅっと苦しくなって、そそくさと部屋に入る。

鍵をかけてスリッパを脱いで、そのままベッドへと一直線に進む。
気づかなかっただけで体力は限界だったのか、急激に疲れを感じて倒れこんだ。

ふわりと香る柔軟剤のいい匂い。
目をつむればきっとすぐにでも眠れるだろう。


だけど私にはまだやることがある。
指一本すら動かすのがだるいのに、絶対にやらなければという重圧によって動く――動いてしまう。

メッセージ画面を開いて、ポチポチと入力する。

連絡なんてする意味ないのに。
自分から家出したのにおかしな話。
そんなに眠いならもう寝れば?

こういうときですら真面目――いや、愚直なだけか。


誰からでもない自分の言葉がずっと頭の中を支配する。


須戸花町(すどかちょう)にいます。心配しないでください』


送信した言葉はきっと見てもらえない。
どうせ私がいなくなったところで心配なんてしていないのだ。

――わかってる、全部わかってるのに。



このベッド、前はいったい誰が使ってたんだろう。
寝てる間になにかされたりしないよね?
明日からどうしよう。

そうやって眠りに落ちるたった数秒間ですら思考することをやめられない。


だけど――


『おやすみ、依桜』


その日はその温かい言葉がたしかに心の片隅にいた。