月花のナイトに寵愛される

扉を開ければ彼はソファーに座ってスマホを触っていた。
私に気がつくと顔を上げ、ぱちりと目が合う。


「……上がりました、ありがとうございます」


お礼を伝えると彼は困ったように笑った。


「ごめん、やっぱり俺の服じゃサイズでかいね」
「え? これ湊さんの、なんですか?」


女性のものだと決めつけていたけれど、これが彼のものなら疑問点も腑に落ちる。


「服も一緒に持ってきてもらったんだけど……まあ、治安維持のために返したんだ。だからそれは俺の」

「そう、なんですね。ありがとうございます」


彼の言う治安維持がどういう意味かわからないけれど、感謝の気持ちを伝える。
彼はいいよと笑ったあと、むしろ男物でごめんねと口にした。


「立ち話もなんだし、ここ座って。あ、一応言っとくけどなにもしないからね」


なんだか私よりも彼の方が警戒している気がする。
そう思うと緊張も和らいで、促されるまま空いたスペースに腰かけた。


「あの、着替えを持ってきてくれた方って……」
「仕事だからもう帰ったけど、どうかした?」
「あ、いえ、お礼言いたかっただけ、です」


すると少し間を置いて「依桜って真面目だね」と彼がこぼした。


その言葉にドキリとする。
だけどそんな私には構わず彼はふわりと笑う。


「いい子だ」

「え、いや、お世話になってるしお礼言うのはむしろ常識、だと思います」


まさか直球な言葉で褒められるとは思わず焦る。

人生で耳にタコができるくらい真面目だと言われてきたけれど、純粋な褒め言葉として言われたのはいつぶりだろう。