月花のナイトに寵愛される

雲が月を隠し、土砂降りな雨が降る夜。
目が痛くなるくらいネオンの光が輝くこの町へ足を踏み入れるのは、正直勇気が必要だった。
しかし迷ったのは一瞬で、人目も気にせずただ走り抜けていく。

目的地なんてない。
おまけに道もわからない。
でも走り続けるしかない。

そうでもしないと湧き上がってくる感情が爆発してしまいそうだし、自分の愚かさに耐えられそうにもない。


傘の隙間から人の視線を感じる。
見られたくなんかないけれど、夜も更けたこの雨の中、傘も差さず人が走っていたら目で追ってしまうだろう。

ずっと走り続けていたい気分だけれど、息が苦しいを通り越して体が痛くなってきた。
そして「あっ!」と気づいたときには足をもつらせて、ドシャッと派手に転んでしまった。


――ああ、もう。
嫌だ、全部。

怒りや悲しみ、羞恥心といった負の感情がこれでもかというほどに心を占める。
ひとりでは受け止めきれず、今すぐにでも大声で叫んで泣き出したかった。
それなのに心のどこかでは冷静で、そう考える愚かな自分を無表情で見つめるのだ。

立ち上がる気力もなく、うつむいたままただ雨に降られる。
暖かくなってきたとはいえ夜の雨は冷たくて、体が冷えてきた。

このままじゃきっと風邪を引くだろう。
それでもべつにどうでもいい。

だけど……だけど、風邪を引いたらどうしたらいいんだろう。


――たった今家出をしてきたというのに。