誰よりも、愛してる

「何?」
「知菜は、どう思う?」
「何が?」
「さっき紺野(こんの)が言ってた、恋人のフリってやつ」
「ど、どうって……言われても……」

 突然の質問に何て答えればいいのか分からない私は言い淀む。

「ぎゃ、逆に、虎太郎はどう思ったわけ?」

 何が正解か分からない私は答えることから逃げる為、逆に同じ質問を虎太郎に投げ掛けると虎太郎は、

「俺は……まあ、それも一理あるなって……思った」

 真っ直ぐに私を見据えながら、そう答えたのだ。

「それって――」

 その言葉の意味を聞こうと口を開き掛けると周りの席の生徒たちが戻って来てしまい、「この話、また後でな」と言って虎太郎は再び前を向いてしまった。

 さっきの台詞から、虎太郎は私と恋人のフリをしてもいいと思っていることが分かり、私はショックだった。

 だって、フリだよ? 本当に付き合うわけじゃない。

 私は、虎太郎の『彼女』になりたいのに。

 ただ告白を避ける為に、周りを騙す為だけに、恋人のフリをするなんて……。

 そんなことを考えていたせいで数学の小テストは全然解けなくて、授業も全然集中出来なかった。


 放課後、充希は大学生の彼氏が迎えに来てくれるというのでさっさと帰っていき、今日はコンビニのバイトが無い虎太郎と一緒に帰ることになった。

「昼間の話の続きだけど――」
「ああ、恋人のフリの話?」
「そ」

 ここでそんなの有り得ない、嫌だと答えたら、この話はこれでおしまい。

 多分、「そっか」の一言で終わってたと思う。

 本音を言えば、嫌だ。

 でも、授業中、色々考えた。

 告白され続けたところで虎太郎は誰かと付き合うことは今のところ無いけれど、いつ、心変わりするか分からない。

 もし、急に心変わりして虎太郎に彼女が出来てしまったらと考えると、気が気でない。

 そんなモヤモヤを抱えるくらいなら嘘でもいいから付き合ってることにすれば、少なくともその不安からは解消されるだろうし、この先も変わらず一緒に居られるんだという結論が出た私は――

「まあ、これ以上虎太郎に告白して振られる人が出るのも可哀想だし、虎太郎も告られるの鬱陶しくて困ってるみたいだし? 仕方ないから私が彼女になってあげようか?」

 冗談混じりにそんなことを口にした。