悪魔の様なキミに恋してる

「あ、あり得ない……」

 一人になった会議室で、私はポツリと呟いた。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか。

 矢地くんがあんな最低な男だったなんて、私はとんでもない人と深く関わる事になってしまったのだ。

「何よ、こんなもの!」

 先程手渡された連絡先が書かれた紙を破ろうと両手で紙の端を持ったものの、

「…………」

 何故か罪悪感みたいなものを感じてしまった私はそれをするのを止め、クシャリと丸めてスカートのポケットにしまい込んで会議室を後にした。


 昼休みが終わって午後の業務が始まると、矢地くんは外回りへと出掛けて行って姿が見えなくなり、束の間の平穏が訪れた。

 私が言った事を守ってくれているのか、あの後から普段通りだった彼。

 仕事中に何かをしてくる事は無いようだからそれについては一安心だけど、問題は仕事終わりだ。

 会社を出たらプライベートだから自由と言っていた矢地くん。

 果たして、彼はどういう行動を取るつもりなのだろう。

 とにかく、仕事が終わったら早々に会社を出て、矢地くんと鉢合わせないように帰れば問題無いだろうと、私は自分の仕事にひたすら集中していく。

 そして、終わりまで残り約三十分を切った頃、

「羽瀬さん、午前中に作ってくれたこの資料の事なんだけど――」

 いつの間にか外回りから帰ってきていた矢地くんが資料を手にしながら近付いて声を掛けてきた。

「な、何?」

 昼間の事があるせいか、警戒心が拭えない私はついつい冷めた態度を取ってしまう。

 そんな私の態度を見ていた周りの女子たちのひそひそ話が聞こえてくるけど、いつもの事と気にせずにいると、

「あ、小林さん、杉野さん、二人にこの会議資料をコピーしてホチキス留めをお願いしたいんだけど、いいかな?」

 私の前の席に座る二人の女子社員に声を掛け、仕事を頼む矢地くん。

 彼に仕事を頼まれた二人の表情はパッと明るくなり、「喜んで!」と言いながら資料を受け取り、コピー機の方へ歩いて行った。

 そんな面倒な仕事を押し付けられて、何が嬉しいんだか。

 そう思いつつも、愚痴愚痴嫌味を言われずに済んだ事は良かったと矢地くんに向き直ると、

「ごめんね、俺のせいで嫌な思いさせて――それで、ここの数字なんだけど――」

 私にだけ聞こえる声量で『ごめんね』と謝罪の言葉を口にした彼は、再び手にしていた資料を見せてきて、疑問に思っている事を聞いてきた。