悪魔の様なキミに恋してる

「何言ってるの? 今の話を聞いた後で矢地くんと付き合いたいなんて思えるはずないでしょ? 冗談は止めてよ」
「えー? 俺は本気なんだけど?」
「あり得ない! とにかく、私は誰にも言わないから、こういう事は止めてよね」

 言って矢地くんから離れようとするも、

「――嫌だ。俺、気に入ったものは絶対手に入れないと気が済まない性格なの。女に興味持ったの初めてだから、諦めない。絶対、俺の事好きにさせてやるから覚悟してね、南ちゃん」
「!!」

 矢地くんから逃れられないどころか、彼の指が私の頬を掠めたと思った刹那、顎をクイッと持ち上げられる。

 そして、キスされるかされないかギリギリの位置まで矢地くんの顔が近付いてきて、ふいに名前を呼ばれた私の身体は熱を帯びていき、こんな状況にも関わらず、不覚にもときめいてしまった。

「この程度で顔赤くするとか、南ちゃんは男に耐性無いんだ?」
「……っ! は、離して!」

 矢地くんの言葉で我に返った私は彼の力が緩んだところで力の限り、彼を押し退けた。

「な、名前……勝手に呼ばないで」
「えー? 名前くらい良くない?」
「仲良くも無いのに呼ばれるのは困ります!」
「これから仲良くなればいいじゃん。俺の事も名前で呼んでくれて構わないし」
「結構です! とにかく、職場で名前を呼ぶとか、不必要に近付くとか、今みたいに呼び出しとか、そういう事は止めて。あなたの本性を知らない女の子たちに恨まれるのはこっちなのよ? 鬱陶しくて仕方ないんだから」
「あー、そっか。そうだよなぁ。分かった。それじゃあ職場では、名前で呼んだりはしない。けど、会社(ここ)出たらプライベートだし、名前で呼ぶのも自由だよな? って事で……はいこれ」
「……?」

 何だか一人で勝手に話を進めて納得した矢地くんは胸ポケットから小さな手帳を取り出してページを捲るとペンで何かを書いて、それを千切って私に手渡してくる。

「俺の連絡先。ちなみに、職場に届けてる番号とは別のもの。俺、仕事とプライベートでスマホ使い分けてんの。南ちゃんにだけ、特別にプライベート用の連絡先教えるから登録して、後で連絡してよ。待ってるから。それじゃあ、また」

 一方的に連絡先を書いた紙を手渡して後で連絡するよう言ってきた矢地くんはいつもの爽やかな笑みを浮かべると、私を置いて会議室を出て行ってしまった。