エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 目が覚めると、先生の腕がしっかりと私のお腹に巻き付き後ろからピッタリとくっついた状態で抱き締められている。あったかい...先生の温もりから離れたくなくて、しばらくそのままでいた。でも、これももう最後。ここを出ていくって決めたんだから。
 麗奈さんが病院に来た次の日から、毎日メッセージが届くようになった。それは日毎に件数も増え、言葉も鋭いものに変わっていく。"すぐに家を出なければ病院との付き合いを切る" "私が先生をたぶらかし同居までしていた事を言いふらし働けないようにする"そんな内容から始まり、最近では"祖父母のお弁当屋も悪評を流して潰す" "先生と別れるまでずっと監視している" など、ほとんど脅しのようなものになってきている。
 全て本気にしている訳ではないけれど、簡単に他人のスマホの番号や住所、家族の事まで調べるような人だ。先生に迷惑をかける事だけは絶対に避けないと...。

 彼が起きる前に朝食とお弁当を作りマンションを出てきた。自分の家に荷物を置くと、そんなに経っていないはずなのに家の中は薄暗く冷え切っていて、まるで色が無くなってしまったよう。一気に温もりを失った寂しさが込み上げてきたけれど、コートだけを掴んですぐに病院へと向かった。今朝は真冬を思わせるほど空気が冷たく、それが刺激となったのか咳が出始め喉の奥が閉まるような感覚がした。
 そして、いつも通り朝の申し送りが始まると先生の姿もあり、こちらを見ている気がしたけれどメモ帳に視線を落とし気づかないふりをした。きっと心配してくれていたのだろうけど、もうあまり優しくしないで欲しい。つい甘えてしまいそうになるから。またあの温もりを、求めてしまいそうになるから...

 北条さんのオペは無事に終わり、今のところ後遺症もみられないと聞いた。今回のオペの為に先生がたくさん準備を重ねていた事は知っている。初めこそ、何もかも恵まれた人なのかと思っていたけれど、彼は忙しい中でもやれる事は全てやり最善を尽くす為の努力を惜しまない人。神の腕は授かったものじゃない、努力を重ねた結果だ。
 オペから数日が経ち、また個室へと戻った北条さんを訪ねると明るい笑顔で迎え入れてくれた。
 「無事に終えられて本当に良かったです。ご家族の為にも早く元気になりましょうね」
 「そうね!頑張って息子たちをびっくりさせてみせるわ!」そう話す彼女は、今まで見た中で一番素敵な笑顔だった。