エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

柊哉side
 この数週間、北条さんのオペについて何度も検討を重ねていた。彼女はまだ現役で仕事をされているし、絶対に後遺症を残したくない。様々なケースを想定して、できる限りの事をして臨みたいと思っていた。
 しかし、初めて北条さんにオペの説明をした時はかなり渋っている様子だった。彼女は国内最大手の医療機器メーカーH&Uの会長で、うちとも昔から繋がりがあり父親の友人でもある為俺も何度も顔を合わせた事がある。時間が空くと病室に顔を出し話をしていると、そのうち少しづつ表情は柔らかくなりオペにも前向きな言葉が出るようになってきた。
 聞けば、入院中話し相手になってくれたりマッサージをしてくれたり、親身になってくれる優茉のおかげで快適に過ごすことができ、気持ちも前向きになれたと言う。その後も北条さんは、会うたびに彼女の話をしていた。

 そして、迎えたオペの日。実際に腫瘍を目の当たりにすると、幾つもの血管や神経が強く張り付いているような状態でオペ室に緊張感が走った。それらを少しでも傷付ければ後遺症が残る可能性が非常に高い為、一度深呼吸をして再び指先に全神経を集中させた。
 橘先生のフォローもあり、予定していた所要時間よりも早い六時間半ほどでオペを終え、ようやく緊張感から解放され身体は力が抜けたが、アドレナリンが過剰に分泌されている頭はまだ興奮状態。そのせいか、無性に優茉を思い切り抱き締めたい衝動に駆られた。

 医局に戻る途中、病棟の様子を見てまわっていると病室から男の子と手を繋いで出てくる優茉を見つけた。あの子は確か...山岸さんの息子の瑞稀くん。
 山岸さんは後遺症もなく予想よりもずっと早く回復した。足の骨折もありまだリハビリ中だが、そちらも順調に進んでいるそう。優茉と瑞稀くんの後ろから、車椅子にのる山岸さんとそれを押す奥さんの姿も見える。
 「山岸さん、調子良さそうですね」
 「お陰様ですっかり元気です!まだ足はリハビリ中ですけど、瑞稀と少し散歩に行ってきます」
 優茉と手を繋いでいる瑞稀くんも、奥さんもとても嬉しそうだ。患者さんやご家族のこういう姿を見た時、なんとも言えない気持ちが湧き上がり心の底からただただ良かったと思う。
 オペをした患者さんがこうやって元気な姿に戻り、家族が幸せそうに笑っている光景。
 医者として、ここで初めてオペは無事に成功したんだなと実感する。