エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 翌朝、目覚めると目の前に先生の寝顔があり驚いた。でも、安心しきったような寝顔はカッコいいと言うよりは可愛らしく、つい頭を撫でたくなった事に自分でも驚いた。これは...きっと大型犬をよしよしと愛でたくなる気持ちと一緒だと思う。
 そっとベッドから出て朝食とお弁当を作りながらも、朝起きて隣に誰かがいてくれるのってすごく安心するんだな...とぼんやり考えていた。それにまだ始まったばかりだけど、誰かの為に何かをして喜んでもらえる事が単純にすごく嬉しい...

 朝食も綺麗に完食してくれた後ジャケットを羽織り車のキーを持った先生を玄関まで見送りに行く。
 「長時間のオペ頑張って下さい」
 「ありがとう、朝から元気もらえたし頑張れるよ。じゃあ」そう言って靴を履きカバンを持つと振り返りこちらに近づいてきた。
 どうしたんだろう?と思っている間に先生が目の前まできて、片手でぎゅっと抱き寄せられ耳元で「行ってきます」と言ってすぐに玄関を出て行った。
 ...え?今のは...?突然の事に驚き体が硬直したまま動かない。
 ...行ってきますの、ハグ?...ああ、先生はしばらく海外にいたからその癖で...?
 ドクンッドクンッと落ち着かない心臓を抱えたまま、キッチンで後片付けをする。すごく驚いたけれど、ふわっと先生の香りに包まれ全く嫌ではなかった。
 私、大丈夫かな...?毎朝こうなるの...?とまたぼんやりしてしまったけれど、なんとか振り払い支度を済ませ先生よりも少し後に出勤した。
 私が席に着くと「あれ?優茉ちゃん柔軟剤変えた?シャンプー?いつもと違う香りがする」と天宮さんの思いがけない言葉にドキッとした。
 「そ、そうなんです!柔軟剤を変えたので...」
 「やっぱり!ちょっと柑橘系?爽やかでいい香りね!」
 天宮さんが鋭いだけ...?今はなんとか誤魔化したけれど、もしも先生と同じ香りだとバレたらどうしようとハラハラした...。
 
 その後も院内で先生を見かけてはドキッとしたけれど、相変わらず接点はないので私達の関係がバレる事はなさそう。
 でも、思わず彼を目で追ってしまう事が増え、この数日で今まで知らなかった姿もたくさん目にした。
 忙しい中でも病室で椅子に座り目線を合わせお話を聞いている姿、オペ後のリハビリに付き添っている姿、退院する方の見送りに玄関まで降りている姿も見かけた。
 先生は多忙な中でも自分の目で回復具合を確認し、無事退院されるまでをきちんと見届けているのだと知った。それに、ほぼ毎日オペに入りほんの一ミリの狂いも許されないプレッシャーと闘い続けている先生は本当にすごい人だ...。

 そんな彼を少しでも支えたい、出来るだけお家ではリラックスして欲しい...最近はそんな事ばかり考えるようになっていた。
 このマンションで暮らし始めてからニ週間。
 先生のスケジュールに合わせた生活や食事の対応も慣れてきた。毎朝のハグにはまだ慣れないけれど...。
 食事の好みも最近知った事の一つで、先日苦手な物を聞いてみると「実はピーマンとパプリカ、トマト、椎茸もあまり得意じゃないんだ...」と少し躊躇ってから恥ずかしそうに言われ、予想外過ぎる答えに思わず笑ってしまった。
 何でも完璧な先生の発言とは思えず、そのギャップが可愛いとすら思ったのと同時に、本心を曝け出してくれた事がとても嬉しかった。