エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 そして今日は、いよいよ結婚式当日。
 緊張からか早く目が覚めてしまい、ドキドキと落ち着かない心を誤魔化すように髪の毛や肌の手入れをしていた。
 あまり食欲もなかったけれど、彼に促され下のフロアにあるレストランで食事をして戻ると、時刻はまだ八時前。十時にメイクさん達が来て、この部屋で支度を済ませてチャペルへと向かう予定だ。
 「優茉、まだ時間があるからゆっくりしよう?」
 手を引かれてベッドルームへと行き、二人でごろんと横になる。部屋には温かい日差しが入り、お腹は程よく満たされとても心地がいい。それに加えて、大好きな手でふわふわと優しく頭を撫でられれば、あっという間に微睡に包まれた。

 気がつけばうとうとと眠っていて、部屋のチャイム音で目が覚めた。横に彼の姿はなく、リビングの方で物音がしていたのでドアを開けるとそこには、綺麗なお花で彩られたオーバルブーケを持った柊哉さんの姿があった。
 「これは...?」
 たしかブーケは、プルメリアを基調とした真っ白なものだったはず...。でも彼の手の中にあるのは、ピンクや黄色など可愛いらしい色合いの花々でまとめられているもの。
 「優茉、ブーケのデザインを勝手に変更してごめん。実はプランナーさん達と相談して、俺が選んだ花で特別に用意してもらったんだ」
 「え?柊哉さんが...?」
 「この花たちには、俺の想いを込めたから優茉に持っていて欲しい。...気に入ってもらえた?」
 「はい、とっても素敵です!それに、柊哉さんが選んで下さったなんて...嬉しい」
 そっと手渡されたブーケをよく見ると、真っ白と中央が黄色のプルメリアにピンクのバラ、そして白や淡いグリーンのトルコキキョウなど可愛らしいお花が綺麗に纏められている。
 「可愛い...!柊哉さん、本当にありがとうございます。もしかして、お花に込めた想いって...」
 そこまで言ったところで、ブーケごとそっと抱きしめられた。
 「花言葉、優茉は全部わかる?」
 「えっと、たしかピンクのバラは...愛?」
 「そう。"可愛らしいさ"と"温かい心"の意味もある。それから、五本で"あなたに出会えて心から嬉しい"っていう意味も」
 「本数にも、意味があったんですね...」
 「この花は"優美"、これは"清らかな心"、それからハワイではプルメリアは愛の象徴とされていて、一途な想いや大切な人の幸せを願うという意味もあるんだ」
 「素敵...どれも私にはもったいないくらいです」
 「どれも優茉にぴったりだよ。俺の想いと共に、受け取ってくれる?」
 「はい...私も、愛してます」
 ぐっと背伸びをして、感謝の気持ちを込めて彼の唇に自分のをそっと重ねた。
 「ありがとう。ふっ、もうすぐメイクさん達来ちゃうよ?」そう言って、自分でも気づかないうちに溢れていた涙をそっと親指で拭ってからお返しのキスをくれる。
 身体を離されたのと同時に部屋のチャイムが鳴り、慌てて涙と口元を拭って緩んでいた頬に力を入れた。

 ドレスに着替えチャペルまでの移動中、車内では緊張から冷たくなっていた私の手を柊哉さんがずっと温めてくれていた。
 「優茉、せっかくだし雰囲気を目一杯楽しもう?」
 「そうですね、一生に一度ですし」
 「俺はもうこんなに綺麗なドレス姿が見られただけで満足してる。キスしたいけど、メイクが崩れるといけないから我慢するよ」そう言って手の甲にちゅっとキスをして、いつもの数倍甘さを含んだ瞳で見つめられると落ち着いてきた心臓がまたドクンっと暴れだす。
 控え室へ入るとここからは式まで別々になるため、柊哉さんはこめかみにキスを落とすと「待ってるからね」と甘い声を残して出ていき、彼と入れ違いに私のお父さんが入ってきた。
 少し照れくさかったけれど立ち上がってドレス姿を見せると、お父さんの目からは途端にポロポロと涙が溢れ始めハンカチでそれを拭っている。
 「お父さん...?」
 「優茉...とても綺麗だよ。優佳に...お母さんに、そっくりだ」そう言葉を絞り出して涙を拭う姿に、私もじわじわと視界が歪んできて涙を堪えるのに必死だった。
 外にあるチャペルの入り口にスタンバイし、お父さんの腕に手をかける。少し見上げると、雲一つない綺麗な青空が広がっていた。
 「...お母さんも、見てくれているかな?」
 「ああ、もちろん見ているさ。優茉が空を見上げた時は、お母さんも見ているんだよ」
 「お父さん...ありがとう」
 「優佳、夢が叶ったな」
 「え...?」
 「そのネックレス、おばあちゃんにもらった物だろう?つけてくれて、ありがとう。お母さんも喜んでいるよ」
 そっとネックレスに触れ涙を拭うと声がかかり、バーンと勢いよくバージンロードへと続く扉が開かれた。