お礼を言いたくて手を伸ばしたその時、今度は石畳のわずかな隙間に躓いて、零様に勢いよく飛び込んでしまう。
『なっ!』
そのまま私達は近くにあった池に落ちてしまった。
幸いにも金魚が泳ぐ小さく浅い池だったが、私はおろか零様もずぶ濡れ……。
私は池の中で正座しながら、必死に謝る。
『申し訳ございません! 私のせいでこのようなことに、すぐにお着替えを……』
『ふふ……』
『……へ?』
『ふははは! 俺を押し倒した上に池に落とすとはな、面白い』
前髪をかきあげてこちらを見つめる姿は、不謹慎だったがドキリとするほどに美しく色っぽい。
それが私が初めて見た零様の笑顔だった気がする。
すると、そんな記憶の世界が一気に暗くなる。
目の前には仲睦まじそうに笑い合う零様と綾芽様の姿。
そこに行こうとしても、私の足はとてもとても重くて動かない。
行かないで……!
私の後ろには大きな闇が迫っていて、いくつもの妖魔がひしめき合っている。
その中から伸びた手が私を掴んだ。
「オマエハ……シアワセニナレナイ」
「──っ!!」
とても低い妖魔の声で語りかけてくる。



