守護王の最愛~運命を壊す禁断の恋は、祝福の淡雪を降らせる~

「ご心配には及びません」

 私は胸元から貝殻を取り出す。
 手の平に収まるそれを開けると、中に塗り薬が入っている。

「それ、まだ持っていたの?」
「はい」

 この貝殻に入れられた塗り薬は、稽古で怪我が絶えなかった私に綾芽様が昔くださったもの。
 まだ成長しきっていない私は自分の体をうまく扱いきれず、怪我ばかりしていた。

『凛、これを』

 そう言って優しく差し出してくださった。
 光の反射によって色を変えるその貝殻は、綺麗でなんだか自分にはもったいなくて……。
 お守りのように大事に持っていた。

「でも、使っていないわね?」
「え……?」

 そう言って綾芽様は私からその薬を奪うと、指で取ってそれを私の頬に塗る。

「いけません、御手が汚れます!」
「怪我しているあなたに触れられない手なんて、いらないわ」

 綾芽様自らの治療をありがたく受け、零様のお戻りを待った。


 夕刻に戻られた零様を、私と綾芽様が迎えた。

「おかえりなさいませ」
「ああ」

 私は早馬で零様へ先刻の襲撃を報告したが、零様自身もすでに把握されていたようだった。

「ご無事で何よりでございます」