守護王の最愛~運命を壊す禁断の恋は、祝福の淡雪を降らせる~

 思わず見惚れてしまっていて所作を忘れた、とは言えない。
 何事もなかったかのように零様は私から目を逸らすと、ちらりと奥の部屋を確認した。
 そうして、彼もまた同じように跪き、中から現れる人物を待つ。

 わっと貴族様たちの声があがった。

「──っ!」
「いらっしゃるぞ」

 小声でそう伝えられて、私もその方をじっと見る。
 簾が上がって、中から一際美しい女性が現れた。

「やはりお美しいな、『桜華姫』綾芽様は」

 私が零様に見惚れていた時のことを棚に上げておきながら、上司は綾芽様への賛美の声をあげる。
 だが、上司がそう思うのも無理はない。
 いや、彼だけでなく綾芽様を見た者は例外なく見惚れ、その美しさにひれ伏すだろう。
 綾芽様の艶やかな赤い着物には、桜や毬などの刺繍が施されているが、それに負けない綾芽様のにじみ出る端麗さ。
 女の命である髪は、私よりもはるかに長く、太陽の光を受けてまるで絹のよう。

 そんな綾芽様とはまた違った秀麗さを持つ彼──零様は、すり足で綾芽様に近づく。
 籠を手渡すと、綾芽様が一歩前に出て、目の前に跪く貴族様たちに声をかける。