守護王の最愛~運命を壊す禁断の恋は、祝福の淡雪を降らせる~

 私の声を聴いた伊織様は、鋭い視線をこちらに向けてくる。
 手に持った酒を素早く棚へ置くと、懐から刀を抜いて襲い掛かってきた。

「伊織様っ! おやめください!」

 咄嗟に抜いた懐刀でその刃を受け止めると、押し負けて倒される。
 背中にひんやりとした感覚が広がると同時に、交わった刃は私の喉元のすぐそばまで来る。

「伊織様っ!」
「黙れ、邪魔をする者は殺す。お前でもだ」
「おやめください、どうして零様を……」
「どうして、だと?」

 その言葉に押し込まれる刀の威力が弱まる。
 私に馬乗りになって殺そうとするその手が、少しだけ震えだした。

「あいつは、あいつは私の弟を殺した」
「……え?」
「あいつは香月を、香月を見殺しにしたんだ!」
「──っ!!」

 強められた語気は私の心に重くのしかかる。

「助けられたはずなのに、なのに殺した。あいつは! 人の心のない化け物だ!」

 その言葉を聞いた途端に、私の中で何かがはじけ飛んだ。
 違う、そうじゃない!
 あの人は、あの人は……。

「化け物なんかじゃない……」
「は?」