守護王の最愛~運命を壊す禁断の恋は、祝福の淡雪を降らせる~

 今日は零様の生誕の宴ということもあり、めでたい料理や酒に加えて、零様の好物である海老のしんじょも出されていた。
 しんじょを召し上がっていなかったのも珍しい。
 それに先程近づいた時も、お酒の匂いがしなかった……。

 何か嫌な予感がして、私は台所へ行く足を速めた。


 台所に着くと、そこには誰もいなかった。
 明かりもつけられておらず、薄暗いそこには料理係の者が一人もいない。

 どういうこと……?

 その瞬間、奥の棚の後ろ側から何か物音がした。
 私は胸元に忍ばせてある懐刀に手をかけ、ゆっくりと静かに奥のほうを覗き込みながら進む。

 何か水のようなものを注ぐような音が聞こえてきたのと同時に、そこに何者かがいることを悟る。
 その人物の手元を見ると、酒の徳利に何かを注いでいた。
 注ぎ終えた瓶を棚に置くと、懐から何かを出して徳利に入れている。

 さらさらと粉状の何かが入れられたそれが、零様へ出される予定の食後酒だと気づく。

 まさか、毒……!?

 その瞬間、その人物の姿が月明かりに照らし出された。

「──っ!! 伊織……さま?」