十一月十五日。この日は、霜月杏奈(しもつきあんな)が心待ちにしていた日である。いつものように高校に登校すると、道の端には出店が並び、学校のあちこちが華やかに飾り付けられ、いつもと雰囲気が違っている。

今日は文化祭。杏奈が学校行事で一番好きな行事だ。杏奈は浮き足立つ足で教室へと向かう。杏奈のクラスはコスプレ喫茶をすることになっており、杏奈は赤ずきんのコスプレをする。

(楽しみだな〜!お昼からは演劇部の劇があるし!)

劇のことを考えると、少し杏奈の胸に苦いものが広がる。しかしそれを一瞬で吹き飛ばしてしまうほど、杏奈はわくわくしていた。

しかし曲がり角に差し掛かった時、杏奈は誰かとぶつかってしまった。よろけてしまいそうな杏奈の手をぶつかった相手が掴む。

「ご、ごめんなさい」

「こっちこそ、ごめん」

心地よいテノールに杏奈は目を開く。目の前にいる男子生徒を見た刹那、顔が赤くなっていくのがわかった。トクトクと鼓動が早まる。ぶつかったのは、同じ二年生で同じ演劇部に所属している紅葉健斗(もみじけんと)だった。

「霜月……」

「紅葉くん、早いね。劇の練習してたの?」

「まあ、そんなとこ」