はるけき きみに  ー 彼方より -

 自分がいるのは小さな部屋だ。
 板を打ち回しただけの質素な造りだった。
 そこの板の間にベッドでもなく直接寝かされている。

「そうだ、サジットは? 彼はここにはいないのか」
「さじっと、って、お友達ですか」

「航海の途中で船に乗って来たんだ。南の島の男で、彼も日本語がわかる。二人で通訳の仕事をすることになって堺に行こうとしていたんだ」

「通訳? あ、だからこんなに私たちの言葉がわかるのね」
 とうなずいて、

「浜辺で見たのはあなただけだったわ。波打ち際で倒れていて。それで知り合いにこの家まで運んでもらったのよ」

 ああと言って体をまさぐった。この国の着物を着せられている。海に落ちたときにできたのだろう傷がありそれを手当てしてもらっていた。

 礼を言おうとしたときだった。
 一人の男が入って来た。

「おい、紫音。隣の家で、もう一人の異人を介抱しているぞ。そいつも波打ち際で倒れていたって話で」
 そう言ってマシューを見た。

「気がついたのか」
「ついさっきね。驚いたことにこの人は私たちの言葉がわかるのよ」
「そうかい、だったらよかったじゃないか。話が出来なかったら困るからな」

 マシューは紫音と親しげに話す男を見た。
 粗末な着物を着ているが、筋骨隆々で力仕事をしているように見える。

 その視線を感じて、
「おう、俺は徳三ってんだ。この浜で漁師をしている。彼女は、紫音て名前だ、どうだ美人だろう」
 男は余計なことまで言う。

「だからってお前、手を出すんじゃないぞ。怪我が治ったらすぐこの家から出ていくんだ。なんたって、お前は異人なんだからな。俺らにとっちゃ得体のしれないやからなんだ、わかったか」

 饒舌な徳三に、紫音はあきれたように笑っている。