はるけき きみに  ー 彼方より -

 近江屋が目の前を去って行った。
 その消えた闇を見て、
「・・俺もここで別れようと思うんだ」
 ぽつりと言う者があった。
 徳三だった。

「え? 別れるって、いったいどうして」
 驚いて紫音が聞いた。

「俺は、その、武家屋敷が苦手なんだ。さっきも立ち寄っただろう、緊張して肩が凝ってな。だからここで別行動にしてもいいだろう」
「徳三さん」

「八重さんの屋敷なら紫音も大丈夫だろうし、それに・・」
 前方にいるマシューを見た。
「あいつが、マシューがいるんだ。いざとなったらまた紫音を守ってくれるだろうからな」

 彼にはさっきの出来事がこびりついていた。
 マシューは侍相手に一歩も引かずやりあったのだ。
 その気迫に度肝を抜かれた。
 西洋人でありながら日本刀に屈しなかった、そして紫音を守ろうとしたのだ。

 それに引き換え自分ときたら。
 漁師だから力だけはある。だが刀を見た瞬間委縮していた、ガタガタと震えて動けなかったのだ。
 自分の負けだと思った。