はるけき きみに  ー 彼方より -

 それは薬袋だった。
 オランダ船の積み荷の一つであることはその表書きで分かる。

「船長さんから買ったのですよ。いや、言葉が通じないから難儀しましてね、船長はこの袋を出して指を一本立てたのです。一文でいいのかというと、うんうんとうなずく。だから一文銭を出したのです。すると彼は怒って薬を引っ込めたんだ。まあ、私も西洋の薬がびた一文で買えるとは思っていなかったんですがね」
 計算高い顔でしゃべっている。

「指一本が幾らなのか分からないんですよ。まあ、懐にはちょうど(きん)がありましてね、これでどうだ、と見せたらとたんに船長の目の色が変わってね」

 近江屋が見せたのは金塊・・、と言ってもほんの小さなかけらだった。
 それでも西洋人には貴重らしく交換しようという身振りをする。

「我われに取ったら砂粒みたいなものだったが、それでも高価に見えるんでしょうね。反対に受け取った薬は日本人には貴重なものだ」

 実際、この日本でとれる金塊は極めて質がいいと評価されている。
 西洋人には喉から手が出る代物だったのだろう。

「薬の効き目のほどはわからない。でも西洋人から買ったものなら薬屋は金に糸目をつけずに買ってくれる、それが取引というものだ」
「・・・・」

「こんなおいしい儲け話がそこにあるんだ。その味を知ったら黙っちゃいられない。だから他の商人に先んじて売買させてもらいたい、それが道理でしょう?」
 と言ってから急に声を落とした。

「いや、これらは鹿島様には内緒に願いますよ。かの御仁はお侍だが、儲け話にも聡い方だ。私がこんな話をしていると知ったら首が飛ぶかもしれませんからね」
 と言って自分の首に手を当てた。
 切る真似をして、そのくせ楽しげに笑っている。