はるけき きみに  ー 彼方より -

 前回増水したとき、やはり紫音は下乃浜から呼ばれた。

 建屋で操作をするとき、『中は見ないで下さい』と断った。
 にもかかわらずそれが知れていた。
 たぶんこの男の配下が隙間から見ていた、そして報告したのだろう。

「いや、操舵輪のことはさておいてだ。その他にもなにかを知っているのではないか」
「なにか、とおっしゃいますと?」

「あの操舵輪を回すだけで水が引くとはとても思えんのだ。建屋の中で、他にも何かをしているのではないのか
「いえ、他にはなにもやっておりません」

「しかと、左様か?」

 はい、と言って姿勢を正す。
 ヒゲを見据えながら頭の中で思うものがあった。
 あの最後の秘策はなかなか見破れないはずだ、と。

 見破れる? 
 いやそれは無理だ、紫音は操舵輪をまわすこと以外は本当になにもしていない。
 だから見ていた侍もそれ(・・)を見ることはできなかったはず。

 沈黙が続いた。

 と、ヒゲがじれたように、
「ええいっ、あくまで言わぬつもりかっ」
 青筋を立てた。