はるけき きみに  ー 彼方より -

「おい、紫音、何をやっているんだ、そんな所で」
 徳三という男だ。
 彼はこの浜の漁師だった。

 紫音が抱いている男を見た。
「い、異人じゃないか、こいつは」
 驚愕して目を剥いている。

「そうなのよ。でも意識がなくて」
「ほっておけよ、異人とかかわりを持ったらろくなことはないぞ。それにどんな悪党かも知れないんだ」
「でも、満ち潮だからこのままだと死んでしまうわ」

 徳三は紫音を見た。
 波打ち際で抱き抱えているため、彼女もずぶ濡れになっている。

 坐している彼女が水にのまれるのは時間の問題だ。
 いざとなったら異人を置き去りにして逃げなければ。

 自分がおぼれる前にあきらめるはずだ。
 だが、潮にのまれていく彼を、紫音はじっと見ているのか。それとも目をそむけて走り去るのか。
 どっちにしろ彼女の心に穴が開く。
 罪悪感にさいなまれることが容易にわかる。

 徳三はため息をついた。
「ええいっ、仕方がないな。どれ・・」
 ぶっきらぼうに言って男を担ごうとした。
「重いな、こいつ普通の人間じゃないぞ」
 
 担ぐのをあきらめ、引きずろうとする。

 ある心理が働いていた。
 徳三は紫音の前で力がある所を見せたかったのだ。

 男の両脇に手を入れて動かしていく。
 砂浜に、まるで亀が上陸したような跡が出来ていった。


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