はるけき きみに  ー 彼方より -

 部屋は薄暗かった。
 外から入った紫音にはその全体が見えない。

 と、いきなり、
「篠沢紫音だな」
 低い声で呼ばれた。

「我われは役所から遣わされたものだ。ここは鹿島様のご自邸である。だが本日は役所においての尋問だと心得よ」

 次第に目が慣れてくる。
 壇上で座っているのはヒゲの男だ。
 両側には配下のような男が並んでいる。

 その一人と目が合った。

 石川という青年だった。
 かつては父丹波の側近で、紫音とも面識がある。

 石川は紫音を見て一瞬瞠目した。
 次には何もなかったように書面を向く。

 紫音もさりげないふうに、
「・・役所の尋問、ですか」

「さよう。書記も同席させての正式な取り調べである。それでお前は今朝下乃浜を発ってこの堺についた、それに相違ないな」
「はい」

「だが、お前はこの堺を所払いになっておる。それなのになぜここにいるのか」
「私は堺の地区会長に呼ばれたのです。用向きは、増水した水の操作をしてくれとのことでした」

「それでその水の操作というものをしたのか」
「はい」
「その件について詳細に聞きたいのだ」

 返事をしながら頭をめぐらせた。

 あの建屋で連れられたときはてっきり役所に行くのだと思った。
 それが鹿島の私邸に来た、しかもここで正式な取り調べをするという。
 なぜだろう。