はるけき きみに  ー 彼方より -

 侍が黙った。
 顔に、商人にいさめられるなどと書いてある。苛立つように刀をしまうと、
「さあ行くぞ」
 紫音を促した。

「マシュー、もしかして後で会えるかもしれないわ。会えたらその時に話しましょう」
「・・あとで、会える?」
「ええ、そうよ」

 近江屋が破願して、
「それがいい! 裏の屋敷の用が済めばお連れしましょう、マシュー殿の前に。必ずお連れしますよ」

「本当だな」
「はい、もちろん。武士に・・、いや商人に二言はございません」
 ハハハと陽気に笑う。 

 侍がさも嫌そうに顔をゆがめた。
 チッと舌打ちをして背を向ける。
 そして当たり散らすように紫音の背を押した。
 
 そんな様子を、マシューが見ていた。

 彼らの行く手に竹やぶがあった。
 そこを曲がろうとしたとき、紫音の横顔が見えた。

「大丈夫よ」
 と言ったさっきとは違っていた。
 青ざめて硬直していた。


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