はるけき きみに  ー 彼方より -

「どうぞ、遠慮なくお入り下さいませ」
 大きな屋敷の前でそう言われた。

 さきほどマシューとサジットは役所を出た。
 今日の取り調べは終了したのだという。
 
「ここは役所の長である鹿島様のご自宅なのですよ」
 案内しているのは商人風の男だ。

「私は近江屋と申します。今後のこともあって鹿島様はここに滞在してもらいたいというご意向なのです」

「今後のこと?」
「そうです。あなた方が探しているオランダ船のことを調べるにも時間が必要です。だからいったんここに落ち着かれてはいかがかと」

 マシューはサジットを見た。
 この堺は見ず知らずの街だ、ここで拒否してもどうしようもない。
 観念したように門をくぐった。

 広い庭には植木があり、石が配置され小川が流れている。

 その光景に目を見張った。
 故郷イングランドにも庭はある、だがそれとはまったく違うのだ。

『・・まるで、一幅の絵のようなのですよ』
 ふいにあの老牧師の声がよみがえった。

『日本庭園にはなにかの意味があるのです。あの庭木にも、水の流れにも、配置された石の有り様にも。それが何なのか、私は知りたいと思うのですよ』

「どうか、されましたので?」
 立ち止まったマシューを近江屋が見る。

「いや、なんでもありません。ただこの庭が・・」
 と言いさしてから、
「なんというのか。・・そう、とくに水が流れるあの感じがいいなと。あちこちをめぐって周囲の木や石にとけ込んでいる。まるで何かがそこにあるように思えて・・」

 ひと息に言ってはっとした。急に饒舌になった自分を意識した。
 おかしくなって笑ってみる。