はるけき きみに  ー 彼方より -

 田んぼの中に小さな建屋があった。
 板で囲まれた素朴な造りだった。

 周辺には鹿島の配下が待っていた。
 下乃浜から紫音が到着してここに向かっている、そんな情報が入っているのだろう。

 紫音は彼らに目礼して建屋の入口に立った。
 胸元から鍵を取り出す、そしてじょうまいに突き刺した。
 侍がその手順をじっと見ている。

 中へ入ろうとすると侍もついて来ようとする。
 紫音は振り向いて、
「ここは私ひとりで入りますから」
 ぴしゃりと告げた。

「そうでなければ水の操作をいたしません。これは鹿島様にも申し上げていることです」

 侍の足が止まった。

 中に入って内から閂をかける。
 ほっと息をついた。
 今回はなんとか食い止められた。だがこれを何時まで続けられるのか。

 増水があるたび下乃浜から呼び寄せられる、だがそんなことをせずとも水の操作を知れば簡単なのだ。
 あの鹿島がそれに気付かないはずはない。
 口を割らされるのは時間の問題だろう。

 さらにこの板張りの建屋には隙間がある。
 表の侍が目を皿のようにして覗いているのが容易に分かる。

 自分の体の位置を変えて彼らの目から隠そうとした。
 『操舵輪(そうだりん)』と呼ばれるものを、だ。

 丸いわっかのような鉄でできたもの、それが目の前にあった。