「もう青々と育っているのね」
紫音はあたりの田を見て言った。
一面に植えられた稲が風を受けて揺れている。
八重もそれを眺めて、
「ここの百姓も篠沢さまに感謝しながら米を作っているのですよ。水が無ければ育たない、あり過ぎて洪水になっても枯れてしまうのだから。あの操舵輪のおかげだと彼らは申しております」
「そう、よかったわ。それを聞いて父も喜ぶと思うわ」
ふと八重がくもる。
「ほんとうに旦那さま、篠沢丹波様はどうしてあのようなことになったのか」
「今さら言ってもしようのないことよ。もう父はこの世にはいないのだもの」
「いえ、一部の者はまだあきらめていないのです。必ずやあの不可解な事件の真相を突き止めるのだと、そして真の犯人を暴き出すのだと」
「・・それは、あの石川さんたちの言葉ね」
「そうです。彼らは丹波さまの腹心でした、だからこそ力を尽くすのだと。ときどき私の家に来て、お嬢様、紫音様の近況を聞いているのです。あの下乃浜でどうお過ごしなのか、と」
「でもあれから一年も経つのよ。もうどうしようもない事だと思うわ。石川さんたちが無理をしなければいいのだけど」
そう言って吹っ切るように空を見た。
真っ青なそこに千切れ雲が浮かんでいる。
そんな二人のあとから徳三が歩いていた。
不可解な事件? 真の犯人を暴き出す?
自分にはわからないことだ。
ただ一年前、紫音は突然下乃浜にやって来た。
浜にあった廃屋を数人の男が片付けた、そしてそこに住み着いたのだ。
若い娘が一人暮らしを始めた、その様子は人目を引いた。
しかし奇異な目でみられても紫音は穏やかに笑っている。
そのうち地元民から貝や海藻を採る術を教わるようになった。
お嬢さま然とした彼女のそんな行動がまた話題になった。
自分の噂をされている、それも詮索という奇異な目で見られている。
それがわかっているだろうに本人は屈託なく笑っていた。
その明るさにほだされていった。
いつの間にか紫音が下乃浜にいるのが当然のようになっていた。
そしていま・・。
二人のなにやら深刻そうな話しが耳にこびりついていた。
◆ ◆ ◆
紫音はあたりの田を見て言った。
一面に植えられた稲が風を受けて揺れている。
八重もそれを眺めて、
「ここの百姓も篠沢さまに感謝しながら米を作っているのですよ。水が無ければ育たない、あり過ぎて洪水になっても枯れてしまうのだから。あの操舵輪のおかげだと彼らは申しております」
「そう、よかったわ。それを聞いて父も喜ぶと思うわ」
ふと八重がくもる。
「ほんとうに旦那さま、篠沢丹波様はどうしてあのようなことになったのか」
「今さら言ってもしようのないことよ。もう父はこの世にはいないのだもの」
「いえ、一部の者はまだあきらめていないのです。必ずやあの不可解な事件の真相を突き止めるのだと、そして真の犯人を暴き出すのだと」
「・・それは、あの石川さんたちの言葉ね」
「そうです。彼らは丹波さまの腹心でした、だからこそ力を尽くすのだと。ときどき私の家に来て、お嬢様、紫音様の近況を聞いているのです。あの下乃浜でどうお過ごしなのか、と」
「でもあれから一年も経つのよ。もうどうしようもない事だと思うわ。石川さんたちが無理をしなければいいのだけど」
そう言って吹っ切るように空を見た。
真っ青なそこに千切れ雲が浮かんでいる。
そんな二人のあとから徳三が歩いていた。
不可解な事件? 真の犯人を暴き出す?
自分にはわからないことだ。
ただ一年前、紫音は突然下乃浜にやって来た。
浜にあった廃屋を数人の男が片付けた、そしてそこに住み着いたのだ。
若い娘が一人暮らしを始めた、その様子は人目を引いた。
しかし奇異な目でみられても紫音は穏やかに笑っている。
そのうち地元民から貝や海藻を採る術を教わるようになった。
お嬢さま然とした彼女のそんな行動がまた話題になった。
自分の噂をされている、それも詮索という奇異な目で見られている。
それがわかっているだろうに本人は屈託なく笑っていた。
その明るさにほだされていった。
いつの間にか紫音が下乃浜にいるのが当然のようになっていた。
そしていま・・。
二人のなにやら深刻そうな話しが耳にこびりついていた。
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