はるけき きみに  ー 彼方より -

 二十年前に・・大迷惑を? しかも奥方様の香苗様にもって・・?

 そう言えば、と思った。
 以前あの大和川で瀬田は言っていた。
『自分は、若い頃役所に勤めていた』のだと。

 あの廃墟の倉庫で多鶴らを助けたときのことだ。
 だったら父と面識があるのは当然だろう。
 だが、母の香苗にも関わりがあるのだとは。しかも母に取り返しのつかないことをしたと言っていた。

「話してください、瀬田さんはいったいどんなことを知っているのですか」
「紫音さまは、二十年前のことを、どのようにお聞きしているのでしょうか。あのときの『懇親会』のことです」

 問い返されて言葉に詰まる。

 あの懇親会で、母は薬の入った酒を飲まされたと聞いていた。
 そのあとで凍り付く経過があったことも。

 意識を失い、気が付いたとき着物の裾が乱れていた。
 妊娠していることに気が付いたのは、しばらく後のことだった。

 それからの香苗の苦悩は計り知れなかった。
 夫、丹波は断じて自分の子だと言ってくれた。
 だが二人は夫婦になって七年間子供が出来なかったのだ。

 月が満ちて生まれたのは女の子、紫音だった。

 香苗の悩みはなおその上で募っていく。
 それに耐えられず喉をついて自刃した。

 紫音にとって驚愕の経過だった。

 そんな話を、瀬田はここで持ち出そうとしているのか。