はるけき きみに  ー 彼方より -

 山道を、徳三は紫音の手を取らんばかりに上って行く。
 紫音は歩きやすいように裾をからげ脚絆をして草鞋を履いている。腕には手甲をしていた。

 そんな二人に、マシューとサジットが続いていた。

 故郷のほぼ平坦な土地と違ってこの国は山が多かった。それも切り立った峻嶮な山脈が辺りに広がっている。

「まったくいつまで続くんだろうな、こんな都行脚は」
 徳三が言い、紫音はわらい返した。

「みやこ、あんぎゃ?」
 マシューが聞いた。

 堺へ行きたいという自分らに、徳三はそれなら送ってやろうと言った。
 ちょうど紫音が行く便があるからな、と。

 彼女は、驚いたことに堺の地区会長に呼ばれていたのだった。
 この間の嵐で増水した川の灌漑について、彼女にやってほしい事があるのだという。

「ぞうすいした川の、かんがい?」
「紫音に聞きたいことがあるんだって?」
 サジットとマシューが同時に聞いた。

「うん、まあ俺も詳しいことは知らないんだが。紫音はあのあたりの屋敷のお嬢様だったんだ。それでえんち・・と言ったっけ。苑池という貯水池でなにかの操作をするらしいんだ」

 そうだよな、と紫音に確認する。
 聞かれて彼女は小さくうなずいた。

 マシューはサジットと顔を見合わせた。
 
 苑池? 貯水池で水の操作をする?

 自分らが知らない言葉が羅列されていた。


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