はるけき きみに  ー 彼方より -

 そして紫音はどうだろう。
 物静かな女性だ。喜怒哀楽をほとんど表に出さずいつも微笑んでいる。

寡黙(かもく)ではあるのですが・・』
 牧師は言った。
『おしなべての日本人がそんな印象なのです。でも、奥底に意味深いものがあるのですよ。それが実に愛おしいのです』
 と。

「じつに・・いとおしい?」
 つぶやいてみる。
 そのあとで、紫音の顔が浮かんだ。

 ば、ばかばかしい。
 なぜか振り払うように首を振ってみる。

 出逢ってほんの数日の女性じゃないか、それも異国の人だ。
 有り得ない。

 向こうの浜辺から、その紫音が帰ってきていた。
 近づく彼女は、夕陽を浴びてあかく染まっている。

 マシューを見て笑顔になった、そして手を振って寄こした。
 思わずそれに振り返す。

 そう言えば、紫音は徳三にこんな笑顔を向けたことはない。
 徳三はたびたび訪れる。
 だが、彼に対するそんな仕草を一度も見たことはなかった。


          ◆  ◆  ◆