はるけき きみに  ー 彼方より -

『でも君は若い、まだ少年だ。いつか機会があったら是非行くことをお勧めします。あの国にはなにか大事な魂がある、それを私は確信しているのです』
 日本への憧憬を、幼いマシューにそう語った。
 なんとも言えない目をして東のはるか彼方をながめていた。

 牧師は晩年、苦悩の中にいた。

 新たに起こったプロテスタントとの対立。それが顕著になるにつれ表情が硬くなっていく。
 同じ神を崇拝するものとして、見るに堪えない争いごとも多々あった。

 疲れた彼の目が言っていた。
 神の教えとは、そうやって争うことではないのです、と。

 年月を経て、マシューはこの日本にやってきた。
 だが来日して日が浅く国の概容さえわからない。

 牧師の言う神々しさも確かにあるのだろう。
 
 だが、ときどき紫音を訪ねて来る人々の行動は奇異だった。
 自分に向けられる眼差しだ。
 異人だ、とその目が言っていた、それが何時も突き刺さってくる。

「牧師さま、あなたの言う素晴らしい国とはいったいどういうものですか」
 自分を諭した彼に問いかけたくなった。

 そしてあの徳三だ。
 どこか挑んでくる様子は不快に感じる。
 まるで自分を目の敵にしているような・・。

 徳三の視線はいつも紫音を追っていた。
 その後でマシューに注がれる。
 彼は素早く間に入ってこようとする。
 自分の体で紫音を隠そうとしている、それが露骨だった。

 でもまあそれは分からなくもない。
 徳三は紫音が好きなのだ。

 突然そんな彼女の家に自分が現れた。
 マシューの世話をする紫音を、彼は不快そうに見つめていた。