はるけき きみに  ー 彼方より -

 うつらうつらしていた。
 脚の傷がまだ治らない。じくじくと痛みを持って何かを訴えているようでもあった。

 なぜ? と思う。
 なぜ自分はここにいるのだろう。
 見ず知らずの家で、いやそれ以上に無謀と言うしかない旅に、なぜ出てしまったのかと思う。

『ああ、もう一度行ってみたいものですなあ』
 万感の思いを込めて老牧師は言った。

『あの国は私の一生涯のあこがれです。美しい五重塔、得も言われぬ風情の枝垂れ桜、荘厳な神社仏閣。礼儀を重んじる人情、何より互いを慈しみ手を取り合って生きていこうとする心があるのですよ』

 何度その話を聞いただろう。
 彼は陶酔したように語っていた。

和国(わこく)、別名日本という国です。私の魂は今もあそこにあるのだと信じています。そう、私は西洋人ですが、前世は日本人だったと思うのです。それほどあの国が好きなのです』

 日本の各地で布教活動をしていた。
 しかし教会の方針で帰国しなければならなくなった。
 あのときは本当につらかったと言った。

『でもいつか必ず日本に戻って来るのだと決めていました。しかしいつの間にか歳をとってしまったのです』
 と声を詰まらせた。

『老い先短い自分はもうあの国に行くことは出来ない。長い長い航海を経てたどり着くのです。そのための体力が今の自分にはない。それは本当に悲しいことです』
 そう言ってマシューを見た。