はるけき きみに  ー 彼方より -

 石川が唖然とする。
 この役所の幹部である篠沢丹波を拘束するなどと。いったいなぜだ?

 そしてあろうことか、丹波は座敷牢の住人になった。

 とうぜん役所は大騒ぎになった。

『当役所、篠沢丹波義、取り調べる事項あって身柄を確保するものとする。詮議する間、騒ぎ立ては無用』
 それを鎮静しようと鹿島が号令する。

 だがこの衝撃は大きすぎた。

 役所には丹波派の人間も多数いる。
 彼らは物陰に集まってこの変事を言いつのった。

 なにより肝心なことがあった。
 拘束された当の丹波が何も語らないのだ。

 石川や他の側近がなんども牢を訪ねた。
「今なら何とか打つ手があるかと思います」
「そうです、我ら精一杯やってみる所存にございます。どうぞ事の真相をお話しください」

 側には牢番がいる。いくら声を潜めようとも伝わっているはずだ。
 牢番は鹿島に報告するだろう。
 そんな危険を冒してまでの行動だ。

 丹波はそれも察しているだろう、だが瞑目して沈黙を貫くままだった。


 石川は紫音に、
「それゆえ、我われは何もできないのです。せめてこうなった理由がわかればと」
 こぶしを握った。