はるけき きみに  ー 彼方より -

 役所から遠ざかって石川が足を止めた。
「紫音さま、なぜこうなったのか私にもわからないのです、いきなりのことでした」

 出勤した丹波は役所の自室で書類に目を通していた。
 異変が起きたのは昼前だった。

 石川は所用で丹波の部屋を訪れようとした。
 そこに数人の捕り方が近づくのが見えた。
 とっさに物陰に隠れる。

 彼らはぶしつけに戸を開けた。
 丹波が驚いて、

「これはいったい何の真似であるかっ!」
「探索の結果の沙汰である、神妙にされたい」

 その問答を捕り方の後ろで聞いている者があった。
 鹿島だった。

 彼は部屋を覗き込むと、
「いや、失礼つかまつった、これは唐突でござった」
 まるで丹波と捕り方を取り持つように言った。

 そうしながら後ろ手で捕り方に合図を送っている。
 部屋から出るように、と。

 鹿島はそのまま入り、中で丹波と二人きりになった。
 なにかの話をしているようだが、ここまでは聞こえない。

 しばらくして鹿島が出てきた。
 それと入れ替わりに捕り方が入る。

 ・・そして。
 部屋から出たのは、まるで連行されるような丹波だった。
 前後を取り方に囲まれ、無言で従っているように見えた。