はるけき きみに  ー 彼方より -

 役所の裏道を通っていたときだった。
 塀の陰から手招きする者がいた。
 丹波の腹心の石川という青年だ。

「こたびのこと、心中お察しいたします」
 小声で言うと近くの潜り戸へ招いた。

「お会わせいたします、篠沢さまに」
「・・え?」
「今なら何とかなります、どうぞ急がれませ」

 そこは通用口らしく商人風の男が忙しそうに歩いていた。
 向こうで荷車を引く者もいる。
 それに紛れるように石川が敷地の奥に導いた。

 丹波は座敷牢にいた。
 紫音を見て瞠目する。

 側にいる石川を見て悟ったようにうなずいた。
 紫音が近づくと、

「・・さぞ驚いたことだろう」
 静かに口を開いた。
「だが、私のことは案ずるな。肝心なのはお前の身上だ、上部から沙汰があればそれに従うように。くれぐれも短慮な考えは起こしてはならぬ」

「ですが、いったいどうしてこんなことに」

 必死に問うた、だが答えようとはしない。
 ただ、
「紫音は安寧の道を選んでくれ。どうか幸せになってほしいのだ」

 なにかを達観したような、それでいて哀しげな眼だった。