はるけき きみに  ー 彼方より -

 海は凪いでいた。
 きのうの嵐が嘘のようだ。キラキラ光る水面が目にまぶしかった。

「あの人は、マシューという人は堺へ行きたそうね」
「そりゃそうだろう、自分たちと同じ異人がいるんだからな」

「異人、異国って最近大騒ぎになっているわね」
「そうだな、種子島に銃というものが伝わってきてから、彼らの話題で持ちきりだそうだ」

 火縄銃という、刀ではない武器の威力はすごいものらしい。
 離れていてもその筒から出される玉が人を射抜くという。
 戦においてこれほど驚異的なものはない。

 そして他にも、時を刻む機械や、カステイラと呼ばれるお菓子など様々なものが日本人を驚かせていた。

「しかし、異人は堺にでもどこへでも行ってほしいものだ。奴らがこの村にいると気になってしようがないからな」
「でもマシューという人は怪我人よ。すぐ追い立てる訳にもいかないでしょ」

「そりゃそうなんだが」
 とためらうように声を落とした。

「お前の側に若い男、それも異人がいるってのが気に入らないんだよ」
 ひどく不機嫌そうだ。

「でも彼に何が出来るって言うの? 今は立ち上がることもできず寝ているだけじゃないの」
「そ、それは、ただお前の側にいるってだけで嫌なんだ。俺は、お前が、紫音がす・・」
 そこまで言って声が消える。
 大柄で武骨な男に似合わず、頬を赤く染めていた。

 徳三の自分への気持ちはうすうすわかっていた。
 しかしそれに答えようとする熱いものが湧いてこない。
 折に触れ気持ちを打ち明けようとしてくる徳三に、無意識に距離を置いていた。

 徳三は、これから茂吉の家に寄ってみると言った。
 そこでサジットという、マシューの知り合いが世話をされているはずだった。

 そんな彼を見送って、紫音はまた家へ向かった。

 マシューと名乗った異国の人、その存在が気になっていた。


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