互いにやぐらのような高みへと上る。眼下に見えるは、ドデカい将棋の駒。符号を言うだけで、勝手に魔法で駒が動く。

「それでは定刻になりましたので、レベッカ・ジェラート様の先手で始めてください」

 ――お願いします。

 互いに挨拶はしっかりと。

 そうして手は進んでいく。持ち時間は十五分。これもエンターテイメント性を重視したのだろう。

「さぁ、行くわよ。ハメ手、鬼殺しを受けてみなさい!」
「なにぃ! 卑怯だぞ!」

 ただの悪戯心だ。

 ちなみに、一手一分以内に指せば持ち時間は減らない。それだけでなく、もう一つこの世界独特のルールがある。

『話している間は、持ち時間が減らない』

 しゃべってさえいれば、それだけ考えることができるのだ。闘技色を前面に出している。それもこの王子が考えたのだろう。連続六十秒以上話してはいけないなどの細かいルールもある。

「さぁ、正確に受け切ることができるかしら」
「ふ、ふん。私に恐れをなしたか。そんな卑怯な技を繰り出すとはな」
「アルマート様を試しているんです。国を背負う王子様、あなたは卑怯な手に引っかからずに正確に受け続けることができますかと」
「くっ……!」

 答えにくい質問を選び、相手の時間を削っていく。

「熟慮する時間さえあれば、間違えない!」
「そんなことで国は大丈夫かしら? いつだって誰かがどれだけでも待ってくださるとでも?」
「人は間違える生き物だ。だが、私の周りには頼りになる者がいてくれる。間違える前に正すことができる」
「つまり、誰もアドバイスをくれない今だけは間違える自信がおありということね」
「ふふん。危険察知の能力は秀でているんだ。お前こそ、私がなかなかはまらないからイライラしているな」

 そうなのよね……なぜか全然ハマってくれない。鬼殺し対策、しっかりと覚えていたのね。かなり大変なのに。
 
「全部……受け止められてしまったわね」
「ああ。君の全てを受け止めよう」

 え、なにそのくっさい口説き文句。なまじイケメンのせいで、ときめいちゃったじゃない。