「そう。女流棋士を目指していたのよ、私は。さぁ、そんな私に勝てるかしら?」
この場では相手を挑発することも許されている。王子も例外ではない。
なぜそんなルールにしたのかは分からないけれど……おそらくエンターテイメント性を高めて、将棋というものを手っ取り早く普及させるためだろう。転生して自分の趣味が存在しないことを知って考えた結果、こうなったに違いない。
そう感じたから、私はここに来た。あなたは孤独ではないと。将棋を知る人がもう一人ここにいるぞと教えてあげるために。
ま、私も対戦相手が欲しかったのが一番の理由だけど。
「そ、それは……お、お手並み拝見といこうか」
ふふん、ぶるってやがるわ!
やはり素人に毛が生えたような実力なのね、きっと。
でも……油断は禁物。
私は何度も小学生に負けてきた。わずかな油断が命取りだということも知っている。
だから油断はしないでおくけれど、通常将棋の指導対局など明らかに実力差がある時は上手がハンデを与える。いずれかの駒をなしにするのだ。奨励会でも人数の関係で実力差がある場合は香車という駒はなしで上位者は戦う決まりになっていた。
この世界では駒落ちのルールまでは設定されていなかったし、そこまでは無理だけど――。
「ハンデをあげるわ」
「ハンデ!?」
「アルマート様に先手を差し上げます」
先手は最初に駒を動かすことができる。指したい局面へ誘導しやすいので、先手の方が勝ちやすいとよく言われる。
「そ、それは……いや……」
変な間があるわね。
「うむ、よくぞ見抜いた。確かに先手の方が有利だ。ああ、そうだ。やりたい戦法を試せるからな! かなり有利である先手、そなたに譲ってやろう。私は王子だからな、当然のことだ」
え。有利ってほどじゃないわよね、先手。勝ちやすいかもねくらいだけど……あ! こいつ、負ける言い訳を用意しやがったわね。この声は観客全員が聞いている。後手だったから負けたのも仕方ないと思ってもらうためね。
情けない。
でも、王子としてはそれが正解だ。皆を牽引しなくてはならない立場なのだから、単に負けては威厳が損なわれる。
「では、先手をいただくわ」
「ああ」
この場では相手を挑発することも許されている。王子も例外ではない。
なぜそんなルールにしたのかは分からないけれど……おそらくエンターテイメント性を高めて、将棋というものを手っ取り早く普及させるためだろう。転生して自分の趣味が存在しないことを知って考えた結果、こうなったに違いない。
そう感じたから、私はここに来た。あなたは孤独ではないと。将棋を知る人がもう一人ここにいるぞと教えてあげるために。
ま、私も対戦相手が欲しかったのが一番の理由だけど。
「そ、それは……お、お手並み拝見といこうか」
ふふん、ぶるってやがるわ!
やはり素人に毛が生えたような実力なのね、きっと。
でも……油断は禁物。
私は何度も小学生に負けてきた。わずかな油断が命取りだということも知っている。
だから油断はしないでおくけれど、通常将棋の指導対局など明らかに実力差がある時は上手がハンデを与える。いずれかの駒をなしにするのだ。奨励会でも人数の関係で実力差がある場合は香車という駒はなしで上位者は戦う決まりになっていた。
この世界では駒落ちのルールまでは設定されていなかったし、そこまでは無理だけど――。
「ハンデをあげるわ」
「ハンデ!?」
「アルマート様に先手を差し上げます」
先手は最初に駒を動かすことができる。指したい局面へ誘導しやすいので、先手の方が勝ちやすいとよく言われる。
「そ、それは……いや……」
変な間があるわね。
「うむ、よくぞ見抜いた。確かに先手の方が有利だ。ああ、そうだ。やりたい戦法を試せるからな! かなり有利である先手、そなたに譲ってやろう。私は王子だからな、当然のことだ」
え。有利ってほどじゃないわよね、先手。勝ちやすいかもねくらいだけど……あ! こいつ、負ける言い訳を用意しやがったわね。この声は観客全員が聞いている。後手だったから負けたのも仕方ないと思ってもらうためね。
情けない。
でも、王子としてはそれが正解だ。皆を牽引しなくてはならない立場なのだから、単に負けては威厳が損なわれる。
「では、先手をいただくわ」
「ああ」



