朝起きると、視界に日光のようなものが入る。
「んぅ・・・」
起き上がろうとすると、なにか(●●●)に抱き寄せられて布団に逆戻りになった。
「ネイ・・・?」
胸とお腹の前に誰かの腕が回っていて、すぐに隣で寝たネイだと気づく。
「おきないと・・・あさだよ・・・」
上手く舌が回らず、拙い言葉でネイを起こした。
「ユキ・・・?」
「ん-・・・今日歌合戦だよー・・・『お話し』しないと・・・」
「・・・っ!」
そう言った瞬間ネイが飛び起きる。
「起きないと・・・!2人とももう起きてるし・・・!ごめんユキ!」
「大丈夫ー。着替えて2人のところ行ってあげないと」
私もさっき起きたばかりなので、顔の前で全然~と手を振っておいた。
                                                               
「おはよ~」
「おはよユキ」
「ん、遅くなってごめ~ん」
「いや、まだ6時半だから」
コーヒーを飲んでいたコウが笑顔で時計を指差す。
もちろん、そのコーヒーには砂糖とミルクがたっぷり。
抹茶は好きだけど苦いものが苦手なコウの、精一杯の頑張りだ。
どちらかというと紅茶を飲んでるような王子様キャラなんだけどね。
「コウとセイは何時に起きた?」
「俺はー・・・4時?セイは6時過ぎに起きてきたよ」
「「・・・」」
思わず私とネイで黙ってしまう。
「コウ、早く起きすぎ!もっと寝ないと・・・!そろそろファンのみんなに気づかれるよ?心配させたくないんでしょう?」
「今はうまくシウさんが隠してくれてるけど隈もあるし・・・。ユキに言ってるけど一番休まないといけないんじゃない?」
シウさんとは、私たち専属のメイクさんで、韓国人の시우(シウ)さんのコト。
爽やかなお兄さんで、これぞ韓国のメイクさん!って感じのアイドル系男性だ。
3人はなんだかシウさんが気に入らないようだけど・・・メイクの腕は確かだし、仲もいいし、頼りにしている。
メンバーにはできない相談にも乗ってくれてるし、解決法を一緒に考えてくれるから今もメンバーといい関係が続いている。
私からするとシウさんはARTEMIS(アルテミス)の一員だ。
それ以前に、私のお兄ちゃん的存在なんだけど。
「ん-・・・ねぇ?一回起きると目が冴えちゃうっていうか・・・同じ時間に目がバッキーンって」
「病気だよそれ。バッキーンって。いっそ睡眠薬でも盛ろうかな・・・?」
「ユキ、怖い発想に走らないで」
首をかしげるとすぐにコウに止められる。
「冗談だよ、9割9分9厘本気の」
「それって本気だよね」
シウさんも困ってたし、シウさんの笑顔のお説教怖いし、お願いしたらすぐに手配してくれそう・・・なんて。
「はいはい、話するんだから飯食え」
「セイありがとー。わ、洋食だー」
「コウにほとんど手伝ってもらった」
ずっといなかったセイがキッチンから出てくる。
ミニテーブルに置かれたお皿を覗き込んで、わぁっと手を叩いた。
サラダとスクランブルエッグ、ベーコン。
小食な私はそれだけだけど、成人男性な3人にはトースト付き。
ケチャップにチーズをのせたピザトーストだ。
「さすがセイわかってる~」
いただきまーす、とみんなで声をそろえる。
胡麻ドレッシングをサラダにかけてフォークで刺して口に運ぶ。
量もちょうどいいし、さすがみんなの兄貴分だ。
「ホントユキって大2か?ってかもう今日12月31日だろ?大3になるまであと3、4か月か・・・ダイエット中の女子高校生くらいの量だよな」
「そうだよね。ただでさえ細くてファンからもスタイリストさんからも心配されてるのに・・・」
「マネージャーも驚いてたぞ?栄養士手配しようとしてたしな」
「いやぁ・・・一回不登校になった時に胃が小さくなったみたいで・・・少しで満腹だから心配はしないで」
もぐもぐしながらそう答える。
事実だし、不登校もいい経験だと思っているので、みんなも気まずそうな顔はしない。
「わかってるけど・・・」
「それに私、歌ったりすることあまりないからライブ中に酸欠で倒れるとかもないし」
「あー、それはコウが最初らへんなってたけどな」
「今は30曲歌っても倒れないと思う」
「一年で慣れ過ぎだ馬鹿」
そんな軽い会話が、好きだった。
・・・うん、好き、なんだけど。
「・・・じゃあ始めるか」
今からは、大事な時間。