「ユキからお風呂入っておいで」
「はーい」
コウの家なので、我儘は言わずお風呂を借りる。
コウの家には、ある程度私の服もあった。
歌番組に間に合いそうにない時、私がコウの家に泊まって徹夜で一緒に曲作るから。
セイとネイは、コウの服借りてたけど。
コウの実家はそこそこ太い。
だからひとり暮らしのコウの自宅もとても広い。
浴槽だって、当たり前に。
                                                                                          私がお風呂から出ると、ネイがすぐに入れ替わりで入る。
さっき脱衣所の前でセイに『俺とに入るか?』と揶揄われ、ネイは顔を真っ赤にしてバシンと脱衣所のドアを閉めていた。
バシンだよ、脱衣所のドアが。
「ユキ、髪乾かそ。風邪ひいたら大変」
「自分で出来るよ?」
「いいから。前座って」
ソファーにすわるコウが自分の足と足の間をポン、と叩き、半ばあきらめてそこに腰掛ける。
するりするりとコウが私の髪を梳き、しばらくするとサイドテーブルに置いてあったドライヤーを手に取る。
カチ、と音がして、風に当たった髪が視界に入った。
私は今髪が長いので、乾かすのに時間がかかる。
面倒くさくなるといつもぶわーってクシャクシャにして乾かしちゃうんだけど。
優しく髪が撫でられ、ときに耳にかける。
「・・・ふふ」
くすぐったくて笑い声が漏れる。
「・・・っ」
後ろで息をのむような声が聞こえたけど、私はドライヤーの音だろうと気づくことはなかった。
しばらくして、ネイがお風呂から出てくるのと同時にドライヤーの風が止まる。
「はい、じゃあもう歯磨きして寝なさい」
「えー・・・1人じゃ寂しいよ。せめてネイと一緒に、ね?」
「・・・」
「おねがい・・・」
「っはー、ホント・・・ユキのコトになると甘くなっちゃう」
髪を乾かし終わり、ドライヤーを片付けたコウにそう言われてお願いしてみる。
「じゃあネイにお願いしてみて。・・・まぁ、もう寝る準備できるんじゃないかな?」
コウが苦笑して、ネイがいるはずの洗面所に視線を向けた。
さっきネイはコウからドライヤーを受け取って洗面所に行った。
今も少し、ドライヤーの音がする。
それもすぐに終わって、歯ブラシを2つ持ったネイが現れた。
「はい、ユキの分」
「わ、ありがとう」
歯ブラシを受け取り、ソファーに腰を掛けなおす。
「あ、ネイも座って」
「ん」
隣にドカッとネイが座り、少し距離が詰められたので、私もネイのほうに寄ってあげた。
ネイは最近ずっと面倒を見てくれていた祖母が亡くなり、寂しがり屋に拍車がかかっている。
だから距離も近いし、ボディータッチも結構あるし、もしかしたらセイとお風呂入りたかったのかもしれない。
「すぐに寝るんだよ?」
「ふぁーい」
歯ブラシを咥えたまま返事をして洗面所に行く。
口をゆすいで、後ろで待っていたネイと入れ替わる。
「・・・っん、よし。寝る?」
「うん」
一度リビングに戻って、セイがお風呂に行ってるのを聞く。
「おやすみ。ちゃんと寝ろよ」
「こっちのセリフだぞ?」
コウにそう言われ、ネイが反論する。
ホントだよ・・・1番寝る時間が少ないの、たぶんコウじゃん。
夜は1番遅く寝るし、朝は1番早く起きるし。
「ちゃんとあったかくして早く寝るんだよー?」
私も一応声を掛けて、ネイと寝室(即席)に向かった。
たまにあるお泊り会のために置いてある布団を敷き、そこに横になる。
明日で今年も終わりか・・・。
明日はきっと寝れないから、今日はゆっくり休まないと・・・。
近くにあるネイの気配に安心して、私はそっと目を伏せた。