「お疲れ様、みんな」
「お疲れー!」
「頑張ったね」
「今日は遅いし、明日○○歌合戦あるらなー」
私・谷藤(たにふじ)粉雪(こなゆき)は、ARTEMISというバンドのキーボード。
今はまだ大2だけど、ありがたいコトに付いてきてくれるファン──通称『ルアーズ』──がたくさんいた。
ちなみにARTEMISというのはギリシア神話の月の女神のコト。
ドラムが語学堪能なので、ポルトガル語で月の『ルア』から引っ張ってきたんだ。
「来年も頑張らないと」
「その前に○○歌合戦があるじゃん」
ARTEMISは、ボーカルの新里(にいざと)胡瞳(こどう)、ギターの公依(きみより)寧璃(ねいり)、ドラムの伊丹(いたみ)聖藍(せいらん)、そしてキーボードの私で結成されている。
今年デビューしたばかりだけど、作曲担当の私と作詞担当の胡瞳でがんばっていっぱい曲をつくり上げたんだよ。
「んじゃ、帰ろ!明日は朝一番から話してそのあと○○歌合戦出るからしっかり休めよ?」
リーダーでありドラムの聖藍──通称『セイ』──がそう言い、私を見る。
「特にユキ。休まないとだめだぞ?」
「うん、作詞も順調なのは知ってるでしょ?作曲もゆっくりでいいよ」
「そーそー、ユキはファンと俺らの為だったらすぐ無理するからなぁ」
セイに続き、ボーカルの胡瞳──通称『コウ』──、ギターの寧璃─通称『ネイ』──にも言われて、少し心外だった。
「休むよーちゃんと休むもん。作曲もうすぐ終わるし」
「・・・え?」
口を尖らせてそう返すと、みんなが固まった。
あれ・・・まず・・・い?
「っは?・・・どーゆーコト。まさか昨日寝てないの?」
「え?い・・・いや、そんなわけ・・・ねぇ?」
しまった・・・余計なコト言っちゃった・・・!
「ふーん・・・今日も寝ないんだ?」
「そう・・・ち、違うっ・・・!」
うー・・・なんでこんなにみんなの誘導に従ってしまうんだろう。
「はぁ・・・ユキ、今日は僕の家に泊まりなさい」
「えぇ・・・だって、泊まったら寝かされちゃうし・・・」
「その為に泊まらせるんだから当たり前でしょ」
コウにそう即答され、思わずむくれる。
「じゃあみんなで泊まるなら泊まる。そしたらちゃんと寝るし」
「はー・・・しょうがないな。みんな、今日大丈夫?」
「もちろん。夜更かし・・・はできないからトランプはやめようか・・・」
「そうしよ!・・・その、色々あるし、な・・・」
最後にセイが言葉を濁し、みんなもなんとなく察して頷く。
「じゃあお疲れ様でーす」
忙しそうなスタッフさんに一言掛けてから会場を出る。
マネージャーに送ってもらって、私たちはコウの家に向かった。