この記憶をなぞったのは、何度目だろうか。
はぁっと息を吐いた。
外では、雪が降っていた。
会社から、駅までの道を歩く。
歩き慣れたものだ。
目の前を歩く学生数人が
「このまま明日の持久走中止になってほしい!!」
と天に懇願している。
ふと、笑みがこぼれた。
改札を抜けて立ち止まり、雪空を見上げる。
あの日以来、瑛斗くんには会っていない。
入試日が重なって一度も会えないまま、私は受験が終わったと同時に塾を卒業した。
時間は動いていた。
当たり前のことだ。
あの日の雪は、砂時計のように地面に落ち続けたから。
その砂時計を、私はこの目でしっかり見たから。
そして
私たちはもう、会うすべもない。
住所はもちろん知らなかったし、スマホをもっていなかった瑛斗くんと連絡先を交換することもなかった。
結局、気持ちを伝えることもなかった。
今、私は某中小企業の会社員として生きている。
スーツを纏って、歯車の一部として働いている。
雪の白の中で、大きく息を吸った。
家に帰って、すぐにお風呂に入ろう。
そんなことを思いながら、雪空に向かって両手を伸ばす。
そして、静かに目を閉じる。
………………‥‥‥‥‥……………………………………………‥……‥…‥…
貴方は今、どこにいるのでしょうか。
貴方には今、大切な人がいるのでしょうか。
雪の夜が訪れると、貴方の横顔が鮮明に浮かび上がります。
雪の夜が訪れるたびに、貴方の影が隣にある気がします。
きっと二度と会えない貴方の幸せを、私は永遠に願っています。
………………‥‥‥‥‥……………………………………………‥……‥…‥…
雪の日のたびに、何度もなぞった言葉。
甘酸っぱい記憶のなかでそう唱えたのは、もう何回目だろうか。
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